「幼児教育・保育の無償化」より質の改善を
弁護士らが訴え
志水邦江|2019年3月28日10:09AM
「全ての子どもに安心で豊かな保育を!子どもの権利から保育政策を検証する院内集会」(主催:保育を考える全国弁護士ネットワーク)が3月5日、東京・千代田区の衆議院第二議員会館で行なわれた。参加者は約40人。基調報告で『ルポ 保育格差』(岩波新書)などの著書があるジャーナリストの小林美希さんから保育の実態について報告があった。
「衝撃的だった『エプロン・テーブルクロス事件』!?」
保育園児がよく使うタオルエプロンを小林さんが首にかけて説明する。タオルエプロンとはタオルに紐ひもをとりつけ、エプロンの代わりにするものだ。これをテーブルクロス替わりにして上に食器を並べると、動いた際に食事がこぼれるので園児は身動きができない。
なぜこんな人権侵害とも呼べる行為が行なわれるのか。保育士不足のなか、園児が動かなければ食事にかかる時間を短くできるからだ。こうした事例を小林さんは全国各地で見かけたという。安倍政権下、急ピッチで保育所がつくられ、保育士不足はさらに深刻になっている。
「新規開設園では8割が新人という園もある。かつては経験10年くらいだったリーダーに、2年目でもなってしまう。いい手本がいないので若い保育士は早く食べさせて早く散歩にいって早く寝かせてとなってしまう。経験不足で、他人がいる目の前でも保育士が1歳の園児を『お行儀が悪い』と叩くというようなことが日常茶飯事になっている。ストックがないからとおむつを替えないことさえある。養護される立場なのに虐待のようなことが起こっている」
保育士の経験不足、人数不足で保育の質が低下している。保育士の質と量の向上が不可欠だ。10月から実施される幼児教育・保育の無償化で投入される税金は約7800億円。一方、保育の質の改善には保育士の配置基準の引き上げが必要と小林さんは力説する。
「必要な費用は約1260億円(前者の5分の1以下)。にもかかわらず子ども・子育て支援新制度が始まってからもうすぐ4年なのに、いまだに実現されていない」
また、保育士の年収の全国平均は約315万円(内閣府「幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査」2017年度)。処遇改善をしないと保育士は定着しない。小林さんはこう強調した。
「無償化の前にまだまだやるべきことがあるのではないか」
参加者の一人で、世田谷区立保育園園長経験者の女性は、「私も配置基準の問題が一番大きいと思います。少しでもゆとりのあるような状況でないと、次々といい保育士がやめていってしまう」として、強い危機感を吐露した。
【「いい保育」に真に必要なこと】
主催した弁護士ネットワークは今年1月に立ち上がったばかり。共同代表は寺町東子・川口創・藤井豊・宮本亜紀の4氏。保育の問題に関心を持って動いている弁護士は各地にいるが、弁護士会のなかに担当の委員会がなく取り組む弁護士が少ない。そこで、ネットワークを作って取り組んでいくことになったのだ。
最後に3人の弁護士からそれぞれの問題意識について発言があった。寺町氏は「子ども・子育て支援制度での運営費補助が保育事業以外に流れることに歯止めがない状態」であるとして、「もれている鍋の底の穴をまずふさいで保育のカネが保育にまわるようにする必要がある」と語った。
藤井氏からは、公立保育所の全廃計画を出す自治体も増えているなか「今まで公立が担ってきた障がい児保育などの役割が果たせなくなる」との懸念が表明された。
川口氏は、所属する愛知県弁護士会の「待機児童解消と保育の質の確保を求める会長声明」を紹介した後、ネットワークとしては「無償化の問題がいま国会で審議されているが、今の時点で無償化されることへのいろいろな問題点を
(今後も)指摘していきたい」として、「子どもたちが豊かに育っていけるいい保育をつくっていく運動ができたらと思っています」と締めくくった。
(志水邦江・編集部、2019年3月15日号)