「横浜にカジノは要らない!」
寿町で医師らが反対の声
片岡伸行|2019年4月23日12:30PM
「もしもカジノができれば地域は荒み、貧しい人が食い物にされ、ギャンブル依存の人が増える」――。神奈川県下で統一地方選挙(県知事選、県議選、横浜・川崎・相模原3市の市議選など4月7日投開票)真っ只中の4月2日夜、「ドヤ街」で知られる横浜市中区寿町で「カジノ反対」の声が上がった。
江戸時代ですら「犯罪」で、現在も刑法185条などで禁じられている賭博(カジノ)。これを合法化した安倍政権〝肝入り〟の成長戦略がIR=統合型リゾートと呼ばれる一連のカジノ推進法だ。2018年7月に整備・実施法が成立し、「2021年前後」という「区域認定」に向けて各自治体の誘致運動が本格化する。実施法成立後初の統一地方選だったが、自民党(ないし公明党)系候補はいずれも「カジノ争点化」を避けた。
というのも、各種世論調査では、誘致に名乗りを上げている自治体(大阪、北海道など)ですら「カジノ反対」の住民の声が賛成を大きく上回る現況。これはIR法整備後一貫した民意となっている。
神奈川県は「ギャンブル等依存症対策推進関係閣僚会議」の議長を務める菅義偉官房長官(神奈川2区)のお膝元。今回三度目の当選を果たした黒岩祐治知事はカジノの賛否を明言していないものの、知事選で自ら推薦依頼をした立憲民主党の「IR誘致反対」の方針に反発し告示前に依頼を取り下げるなど、その本心が見え隠れする。
山下埠頭へのカジノ誘致が取り沙汰される横浜市の林文子市長は「IRは必要」としながらも「カジノは白紙」と言い続ける。しかし、すでに横浜市はカジノ誘致に関して12事業者・団体(うち8事業者が海外でカジノを経営・運営)から「開発コンセプト」「経済効果」「依存症対策」など具体的な情報提供を受けた。同市政策局政策課によれば、5月にもそれらをまとめた「報告書」を公表する予定で、再開発計画が進む山下埠頭では現在、業者との移転協議中だ。
2月末にはカジノ誘致を掲げる横浜商工会議所(上野孝会頭)が、遅くとも年内に「IR推進協議会」立ち上げの方針を打ち出した。一方、横浜港の関連業者約250社が加盟する横浜港運協会の藤木幸夫会長は「カジノ反対」を表明。経済界の民意は割れている。
【誘致予算を福祉施策に】
そうした中で「寿町から反対の声を」と立ち上がったのが「横浜へのカジノ誘致に反対する寿町介護福祉医療関係者と市民の会」(市民の会)だ。寿生活館で開かれた集会では、長年にわたり寿町住民の診療に携わる「横浜市寿町健康福祉交流協会診療所」の医師で発起人の藤田和丸さんが〈カジノ誘致の予算をギャンブル依存の予防や当事者・家族支援の施策に充て、生活弱者への介護・福祉・医療施策に充てることを求める〉とする声明を示し、署名活動などに協力を呼びかけた。
ことぶき共同診療所所長で医師の鈴木伸さんは「普段、ギャンブル依存症の人をたくさん診ている」とし「脳のブレーキが壊れてしまう」依存症の特徴を説明。「2年前の調査では日本には少なくとも320万人の依存者がおり、世界的に見ても多い」と指摘した。その後、アルコールやギャンブル依存の回復をめざす自助グループ「寿アルク」「RDP横浜」「かわさきギャンブラーズアディクションポート」の当事者から生々しい体験が発表された。「仕事も家庭も失ったが、何よりも失ったのは自分自身」「カジノができたら間違いなく依存者が増える」「最も刺激の強いのがカジノ。イカサマができないディーラーはそういう所では働けない。国はそうした裏の裏をどこまでわかっているのか」などと述べ、それぞれ誘致に反対した。
市民の会は今後、先行して署名活動を展開する「カジノ誘致反対横浜連絡会」と連携し、継続的に勉強会などを実施。「絶対に作らせない」運動を繰り広げる。
7日に当選した105人の県議と86人の横浜市議は地元業者と住民の声を無視できないだろう。
(片岡伸行・記者、2019年4月12日号)