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維新圧勝で「大阪都構想」再浮上へ
どうする公明党
粟野仁雄|2019年4月25日10:28AM
統一地方選前半注目の「大阪春の陣」は、予想通り大阪維新の会が大勝した。松井一郎前大阪府知事(55歳)が大阪市長選、吉村洋文前大阪市長(43歳)が知事選に入れ替わり出馬した「クロス選挙」の大勝により、大阪市を四つの特別区に分ける「都構想」は再度の住民投票などへ進みそうだ。
4月7日午後8時の投票締切と同時にメディアが出口調査で「当確」発表。大阪市中央区の「大阪維新の会」の本部ビルで今井豊幹事長が喜びの「前座会見」。入れ替え出馬への批判について筆者が尋ねると「最初はあったが、選挙戦の終盤は、都構想の実現にはこれしかないと有権者が理解してくれた。クロス選挙は奇策でも何でもありません」と答えた。続いて松井・吉村両氏が会見。吉村氏は「子育て政策などが支持を得た」などと自負、松井氏は「都構想に反対の声もあった。丁寧に進めていきたい」などと笑顔を抑えた。
一方、対抗馬だった自民公認の2人は中央区の合同事務所で敗戦会見。前回に続き市長選で敗れた柳本顕氏(45歳)は「何を問う選挙か明確にできなかった。準備不足は否めなかった」と詫びた。知事候補だった元副知事の小西禎一氏(64歳)は「時間がない中で大阪の政治を変えようとしたが、共感を得られなかった」と俯いた。得票は市長選で松井氏が約66万票、柳本氏47万票。知事選は吉村氏が約226万票、小西氏125万票とダブルスコアに近かった。
松井・吉村両氏は「都構想の住民投票実施時期について公明党が密約を破った」を大義に自ら辞職し「出直し選」を仕掛けた。戦後、自治体首長が任期切れ直前に故意に辞職し、敵が準備不足のうちに出直し選挙で当選して改めて任期を4年得るケースが出たため、公選法は辞職して当選しても残り任期だけに改正された。だが入れ替わり出馬がまかり通れば、県(道、府)知事と県庁所在地の市長が組めば任期切れ直前に難癖をつけて辞職して「出直し選挙」に持ち込み、そこから4年君臨できる。
【都構想をダシにさらに進む? 選挙、行政私物化】
維新は今回、都構想「言い出しっぺ」の橋下徹元市長が表に出ずに勝利した。勝因は、入れ替わったとはいえ現職の強みや露出度の圧倒的な高さだが「府市一体となって取り組んだ」(吉村氏)2025年の万博誘致に成功したのも大きい。高度経済成長時代に「二眼レフ」とばかり経済的にも東京に対抗していた大阪もその後は水を開けられるばかり。08年の誘致を目指した「大阪五輪」も惨敗した。浪速っ子にとって、いくら税金の無駄遣いが唱えられてもお祭り騒ぎへの期待は大きいのだ。
柳本氏は京都大学卒。関西電力に勤務後、衆院議員を6期務めた叔父・卓治氏の影響で政界入り。大阪市議団政策アドバイザーを務める「大阪自民のエース」。夏の参院選に出る予定が急遽の立候補だった。東京大学出身の小西氏は大阪府庁プロパー。行革プロジェクトのリーダーとして橋下知事、副知事として松井知事を支えたが、個人的には都構想に反対だった。だが「借金だらけの大阪を立て直した」と強調する維新を2人は批判するばかりで何も示せなかった。2人について公明、立憲民主、国民民主、そして共産党までが「維新包囲網」を築いたが、NHKの調査では肝心の自民支持層の約半数が維新候補に投じていた。
これに対して「片方が負ければ都構想も終わる」と臨んだ維新は府議選で過半数を確保。市議選も過半数へあと2票にまで迫り、都構想への足固めが前進した。
元大阪府議のジャーナリスト山本健治氏は「クロス選挙の発案は松井氏では。府議だった親父の代からこういう小賢しいことには長けていた。今後、維新は大阪市民だけの参加だった住民投票を勝ちやすいように大阪府民へ拡大するかもしれない」と見る。公明は今回、「反都構想」を明確にしたが今後の衆院選で重鎮の選挙区に「候補を立てるぞ」と維新に脅されて再びすり寄る可能性もある。維新は都構想をダシに「選挙、行政の私物化」を楽しめるのだ。
(粟野仁雄・ジャーナリスト、2019年4月12日号)