旧731部隊軍医の論文に人体実験疑惑
問われる京大の「過去」清算
土岐直彦|2019年4月26日1:02PM
旧関東軍731部隊の軍医将校が京都大学から得た学位(医学博士)論文に人体実験を基にした疑いがあると有識者らが問題視している。検証要請に対して京大は「実験対象がヒトと結論付けることはできない」との回答。調査不十分と有識者らはさらなる究明を求める方針を4月5日の会見で明らかにした。京大をめぐっては京都帝国大学当時の人類学者が琉球民族の墓から持ち去った遺骨の返還訴訟も起こされ、「過去」とどう真摯に向き合うかが問われている。
検証を求めたのは「満州第731部隊軍医将校の学位授与の検証を京大に求める会」(事務局長:西山勝夫・滋賀医科大学名誉教授)。問題の論文は、1945年5月に提出された「イヌノミのペスト媒介能力ニ就テ」。実験に使ったサルがペストを発症し、頭痛や食欲不振を訴えたと記している。
この実験的研究に関し同会は、発症サルが頭痛に苦しむ状態を人間のように把握できるのか重大な疑義があり、サルの体温変化に関する記載も信用し難いと判断。昨年7月、山極壽一京大総長あてに「実験動物のサルは実はヒトではなかったか」と検証要請した。
京大は石井四郎部隊長をはじめ医学部出身者を731部隊に出している。同会によると、部隊は細菌兵器開発のため人道に反する人体実験を常套手段とし、実験では「ヒト」を「さる」と称していた。
調査結果について京大は今年2月、当該軍医がどうやって「頭痛」と判断したか記載はないが、「何らかの行動指標によって」判断したと推察されるなどと通知した。納得しない同会は異議申し立てをしたが、京大は3月、実験ノートや生データが存在しないことを挙げ、これ以上の調査を拒んでいる。
5日の会見で同会は「検証に値しない」と京大の対応を厳しく批判。今後は日本霊長類学会にも問題を提起、京大教員との連携や関連シンポジウムの連続開催で広く世論に訴えていく考えを示した。
(土岐直彦・ジャーナリスト、2019年4月12日号)