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辺野古新基地反対は沖縄民主主義の到達点
阿部岳|2019年4月28日4:26PM
この道しかない。なぜかは説明しない。2月24日にあった沖縄県民投票で、政府の態度はひどいものだった。
危険な米軍普天間飛行場をなくすため、辺野古新基地建設が本当に唯一の道なら、投票は県民を説得する絶好の機会だった。総工費2・5兆円と試算される巨額の税金をつぎ込む説明責任もある。
だが、政府は無視を決め込んだ。メディアが討論会に招いても、インタビューを申し込んでも、「地方公共団体が条例に基づいて行なうものであり、コメントは控える」などと言って応じなかった。
同じように条例に基づいて新基地建設への賛否を問うた1997年末の名護市民投票には、総力を挙げて介入した過去がある。当時、防衛庁の職員がパンフレットを持って戸別訪問に回り、長官は自衛官に集票への協力を求める文書を送った。
今回、理由にならない理由を挙げて逃げ回ったのは、その後の21年余りで議論しても勝つ見込みがないと思い知ったからにほかならない。新基地建設に合理性はないと認めたようなものだ。
一方、賛否の論戦が成り立たず、投票ムードは盛り上がらなかった。「反対に○」の運動を担った玉城デニー知事の支持勢力は戸惑っていた。「せっかくリングができたのに相手がいない。シャドーボクシングばかりで、自分と闘っているようだ」。
投票率をなるべく下げてダメージを減らす政府の思惑が的中したかに見えた。しかし、投票率は52%を超えた。県民は静かに有権者の務めを果たした。「反対」は72%、43万票と、昨年知事選の玉城氏の得票を上回った。
新基地に争点を絞って県民全体の意思を問う初めての機会に、圧倒的で最終的な結論が示された。沖縄の民主主義の到達点であり、法的拘束力がなくてもこれ以上に正当な政策選択はない。
実は県民投票があったこの2月は、もう一つの重要な節目でもあった。全国的にはあまり知られていないが、政府が約束した「普天間の5年以内運用停止」の期限が切れた。
仲井真弘多元知事が2013年末、辺野古の埋め立てを承認する際、新基地完成まで普天間の危険を放置できない、と政府に求めた。安倍晋三首相は翌14年2月、地元との会合で「政府一丸となって取り組む」と応じ、カウントダウンが始まった。
しかし、政府が米軍の運用に口を出した例(ため)しはない。まして飛行場全体の「停止」など、当初から実現の見通しは全くなかった。
新基地反対の公約を破った仲井真氏はその後、落選する。後任の翁長雄志氏、玉城氏が反対を貫くと、政府は普天間の運用停止は新基地への協力が前提だった、と後出しのリンク論を言い始め、沖縄側のせいにして居直った。
今、菅義偉官房長官は「現知事から普天間の危険除去、固定化を避けるためにどうするかが語られてない。残念だ」などと沖縄に矛先を向けている。肝心の運用停止の約束をほごにしておきながら、盗人猛々しいというほかはない。
辺野古新基地に反対の民意が確定した。普天間は運用停止の期限が来た。この2月、沖縄に長くつきまとった問題は区切りを迎えた。普通の民主主義国家なら、これで決着、になるはずだ。
(あべ たかし・『沖縄タイムス』記者。2019年3月1日号)