横畠裕介内閣法制局長官が小西洋之衆院議員を揶揄
西川伸一|2019年4月30日7:00AM
国会で官僚はしばしば答弁に立つ。ただそれは補助的・技術的な範囲に限られ、質疑をめぐる価値判断や評価がそこに含まれてはならない。官僚は国民の代表ではないからだ。内閣法制局長官の場合、憲法解釈や法制面での助言が役目である。
1989年8月から3年余り内閣法制局長官を務めた工藤敦夫氏は、在職時の心境をこう述べている。「法制局というのは黒子なんです。黒子が舞台の前に出て踊るなんて、異常なんです。それは、私は徹底して思っていましたね。黒子が前に出ては、いかん。前に出たように見えても、いかん、と」(『工藤敦夫オーラル・ヒストリー』政策研究大学院大学、415頁)。
長官がその黒子を脱ぎ捨て政治的発言に及ぶとは。直後に野党側委員が予算委員長席に詰め寄って猛抗議し、横畠氏は発言撤回に追い込まれた。「法の番人」として無謬が誇りの内閣法制局にとって、きわめて異例であり屈辱でもある。与党からも批判が起きた。自民党の伊吹文明元衆議院議長は「国会議員に対して姿勢や態度を批判するなんてことはあり得ない。少し思い上がっている」と難じた(3月8日付『読売新聞』)。
驕りの背景には安倍長期政権下での横畠長官の長期在任があろう。横畠氏はすでに5年近くその任にある。近年の長官の中では群を抜く長さだ。集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈変更に「献身」したことで、首相の覚えめでたいのである。長官は特別職国家公務員なので定年はない。一方、一般職の近藤正春内閣法制次長は、退官日を今月末に控えている。このまま横畠氏が居座ると、近藤氏は次長で官途を終えてしまう。長官になれない次長はこれまでいなかった。
野党は辞任を求めている。当然だ。横畠長官は火だるまにされる前に、後進に道を譲ることを理由に「勇退」してはどうか。
(にしかわ しんいち・明治大学教授。2019年3月15日号)