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NHKまで踊らされた
熊本地震「地盤リスク」説
明石昇二郎|2019年5月1日4:05PM
地震の揺れは、活断層からの距離よりも地盤の影響が大きい──地盤リスクを訴えるNHKスペシャルが2017年4月に放送されたが、その根拠となる熊本地震の観測データは捏造されていた。
2016年4月に熊本県をはじめ九州地方を襲った直下型地震「熊本地震」では、まず4月14日にマグニチュード(M)6・5の地震が発生し、その2日後の4月16日未明には、さらに規模の大きいM7・3の地震が発生していた。
気象庁や政府の地震調査委員会ではそれまで、大規模地震が発生した後は余震への警戒を呼び掛けてきた。だが、余震の揺れが「本震」を上回ってしまうという前代未聞の事態を受け、今後は「余震」という言葉を使わないよう改め、「同じ程度の地震に注意が必要」などと呼びかけることになった。これに基づき整理すると、4月14日の最初の地震が「前震」で、16日の地震が「本震」となる。
4月14日の「前震」では、熊本県益城町で震度7の激しい揺れが観測されていた。これを受け大阪大学(阪大)などの研究チームは、益城町内3カ所にポータブル地震計を設置。地震波の観測を始めた直後の4月16日、最大規模であるM7・3の「本震」が発生し、同研究チームはこの揺れを、置いたばかりのポータブル地震計で捕捉できたとした。
地震計のそばで大地震が発生し、揺れの観測に成功するのは大変珍しいことで、このデータは阪大・京都大学(京大)と産業技術総合研究所(産総研)との共著で米国の地震学会誌にも掲載され、ひときわ注目を集めることとなった。
「地盤リスク」は活断層に勝る脅威か
ところで、益城町内には「布田川断層」という活断層が走っている(地図参照)。この活断層に沿う地域では、二度の大地震によって甚大な被害を受けていた。家屋の倒壊も、この断層から100メートル以内に集中発生している。
だが、「本震」観測データは活断層の危険性を検証するためではなく、なぜか別の目的に活用される。地震の揺れを増幅させる「揺れやすい表層地盤」というものがあって、益城町ではこの表層地盤こそが家屋の倒壊を招いた――とする研究に、こぞって用いられたのである。この研究は「地盤リスク」と名付けられた。
この話に乗ったのがNHKである。熊本地震発生の1年後となる17年4月9日放送のNHKスペシャル(Nスペ)「大地震 あなたの家はどうなる?~見えてきた“地盤リスク”~」の中で、
「最新の解析によって浮かび上がってきた新たな脅威」
だとして、「地盤リスク」説が大々的に取り上げられる。
「本震」観測データを精査したところ、3カ所あるうちの一つで、およそ2倍の強い揺れを観測したところがあり、それをもとにボーリング調査をしたところ、粘土層からなる「揺れやすい表層地盤」が見つかったというのだった。が、そこで問題が発生する。