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NHKまで踊らされた
熊本地震「地盤リスク」説
明石昇二郎|2019年5月1日4:05PM
設置した地震計は「微動観測」用
捏造が疑われる発端は、益城町内に常設されていた地震計が記録していた揺れの波形と、臨時で設置した三つのポータブル地震計の波形が酷似していたことだった。4月14日の「前震」で地表や地盤がそれなりに変形していた場合、波形が酷似することはありえないそうだ。つまり、秦氏のデータは生の観測データではなく、人為的な細工が加えられているのではないか――との疑念が生じたのだ。
「地盤リスク」説では、
(1)強い揺れは、他地域の揺れを軟弱地盤の効果分増幅させる計算をしたものと全く同じ。
(2)だから断層近くの特別な揺れ等、他の影響を考える必要は全くない。
としていた。しかし、軟弱地盤の効果分を上乗せする形でデータを細工していたのではないか――と、多くの専門家たちは疑っていた。
益城町での観測データが前代未聞のものであり、たとえ見た目は「不自然」であろうと真の生データであるなら、疑念を払拭すべく、秦氏が説明を尽くせば済む話だろう。しかし、秦氏はそれをしなかった。そのため、データ捏造が疑われる事態にまで発展してしまったのである。
地震データの観測に使われていたのは、白山工業(株)製のポータブル観測キット「データマークJU210」。別売りのデータロガー(記録計)と合わせ、およそ250万円もする。機械は三つ足で、固定金具(アンカー)は3本の足に挟み込むようにして使用する。固定金具を用いた場合、±2G(1G=980ガル)まで耐えられるという。
熊本地震の「本震」の最大加速度は1791ガルだったので、固定した場所が地震で破壊されても動かぬよう、アンカーを上手に使っていれば、耐震裕度はぎりぎりではあるものの観測は可能だったようだ。秦氏らの論文でも、地震計は地面にアンカーで固定したとされていた。
しかし、益城町に着いた筆者を出迎えてくれたのは、こんな衝撃的な証言だった。
「二度目の地震では、ボルトで地面に固定してあった自動販売機が、3メートルくらい真横に吹っ飛んでいた。だから、固定していた地震計が吹っ飛んでしまったとしても全然不思議ではない。地震計が吹っ飛んでしまい、変な観測データになったのではないかな」
益城町で土木業を営む吉川孝一さんの話である。観測データの捏造疑惑は、住民たちも知っていた。
捏造疑惑の勃発後、秦氏はNHKの取材に応じている。17年10月2日のNHKニュースの中で、秦氏はこう語っていた。
「問題になるようなことは何もしていない」
秦氏にしてみれば、大地震後の余震を観測するつもりで三つの地震計を置いたのであり、まさかその直後に本震が来るとは思ってもみなかったに違いない。そもそも観測キットの「データマークJU210」は微動の観測向けのものであり、強震を観測するためであれば強震観測用の「データマークJU220」を用意していたはずだからだ。
さらに付け加えると、バッテリーを使用した場合の「データマークJU210」の連続利用時間は約10時間。長期間の観測をするには外部電源を確保する必要がある。多くの建物が倒壊している中、どのようにして外部電源を確保したのかも気になるところだ。外部電源がなければ、「本震」発生時刻の4月16日深夜午前1時25分にはバッテリー切れを起こしていた恐れもある。
しかし、昨年7月に秦氏の研究室に電話したところ、
「もう秦先生はこちらにはいらっしゃらない」
とのこと。阪大広報を通じての取材もかなわなかった。その理由は今年3月、後に述べる意外な形で明らかになる。