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マイナンバーカード普及率12%
焦る政府の拡大策に市民団体ら警鐘
小石勝朗|2019年5月7日11:22AM
共通番号(マイナンバー)制度の拡大を目的とする法案が、今国会に三つ提出されている。マイナンバー(MN)カードを健康保険証として使えるようにしたり、戸籍情報にMNを適用したり、紙製の通知カードを廃止したりする内容だ。マスコミや国会議員の反応が鈍い中、市民団体「共通番号いらないネット」が4月12日、3法案に反対する集会を衆議院第二議員会館で開いた。
MNカードの健康保険証としての利用は、健康保険法などの改正案に盛り込まれた。医療機関を受診する際に、オンラインで健保の資格確認をする仕組みを導入。MNカードのICチップに収められた電子証明書(公的個人認証機能)を用い、患者は医療機関や薬局の読み取り機にカードをかざす。政府は2020年度中に実施する計画だ。法案は4月12日に衆院厚生労働委員会で可決された。
神奈川県保険医協会の知念哲さんによると、オンライン資格確認の導入後も紙製の保険証の発行は可能だが、「マイナンバーカードを利用するよう健保組合にさまざまな誘導策が取られる」と予測。高齢の患者らがMNカードを紛失するなどトラブルが多発する、との現場の見立てを紹介した。
さらに知念さんは「導入後は医療機関の持つ情報が常時インターネットにつながることになる」と説明した。そして、政府はこれをきっかけに「医療情報へのマイナンバー制度の適用拡大を狙っている」と警鐘を鳴らした。
戸籍情報へのMNの紐づけは、戸籍法改正案が規定した。災害時などの戸籍の再製に備え法務局が保有している副本を利用して「戸籍情報連携システム」を構築し、法相が一元管理する。住所地の市区町村が提供した住民票コードを付し、MNと紐づけして他の行政機関から照会があれば情報提供する方式になりそうだ。旅券(パスポート)発給申請などで戸籍証明書の添付が不要になるという。
【MNカード普及率は約12% 焦る政府の取得促進策か】
いらないネットの井上和彦さんは「戸籍には被差別部落、婚外子といった『差別データ』が蓄積されており、ネットワーク化することで問題が固定化して解決が困難になる。死亡などで除籍された後も150年間保存されるので、本人の子孫の世代にまで漏洩などによるプライバシー侵害のおそれが高まる」と解説した。
通知カードの廃止は、行政手続きを電子申請で完結させることなどをうたった「デジタル手続法案」の柱だ。法公布後、1年以内に発行や更新をやめると定める。
プライバシー・インターナショナル・ジャパンの石村耕治代表は「廃止後はマイナンバーカードが強制的に交付される可能性もある。国民全員に常時カードを携帯させることで『監視国家』につながる」と批判した。その上で「世界の潮流はスマホなどモバイル端末の活用で、ICカードの利用は時代錯誤だ」とも指摘した。
政府は16年度末までに3000万枚のMNカードを発行する目標を立てていたが、昨年12月時点で約1564万枚にとどまり、交付率は12・2%と低迷を続けている。昨年10月に内閣府が実施した世論調査では、MNカードを「今後も取得する予定はない」との回答が53%を占めた。
健康保険証としての利用や通知カードの廃止は、政府の危機感の表れとみられる。菅義偉官房長官は2月の関係閣僚会議で「マイナンバーカードの普及策はさらに検討する必要がある」と述べており、今後もさらなる取得促進策を打ち出す可能性が高い。
こうした現状を踏まえ、いらないネットの原田富弘さんは「利用拡大などできない状況なのに、逆に利用拡大で制度を延命させようとしている。拡大を止め制度そのものを見直すべきだ」と訴えた。
マイナンバー法はMNの使途を税と社会保障、災害対策の3領域に限定しているが、いらないネットは「今回の利用拡大はこれまでとは違うレベル。制度の重大な転換点になる」とみており、引き続き丁寧な議論を呼びかけていく。
(小石勝朗・ジャーナリスト、2019年4月19日号)