「松橋事件」宮田浩喜さん再審無罪
熊本地裁
粟野仁雄|2019年5月9日12:05PM
34年間の屈辱、あまりにも遅すぎたが遂に人殺しの汚名を晴らした。熊本県・松橋町(現宇城市)で1985年1月に59歳の男性が刺殺され、殺人罪で服役した宮田浩喜さん(85歳)について再審をしていた熊本地裁(溝國禎久裁判長)は3月28日、「被告が犯人だと示す証拠はない」と無罪判決を言い渡した。検察は上訴せず無罪が決まった。
宮田さんは脳梗塞で倒れて現在、重度の認知症となり、市内の老人施設に暮らす。弁護団共同代表の齊藤誠氏が「宮田さん、わかりますか、無罪ですよ」と何度も声をかけると目が潤み口元を動かした。二男の賢浩さん(60歳)の呼びかけにも応じた。
事件直後、熊本県警は将棋仲間だった宮田さんが喧嘩での男性の言葉を逆恨みして殺したとみて、連日厳しく取り調べ「自白した」として殺人罪で逮捕した。宮田さんは一審の途中から否認したが熊本地裁は86年に懲役13年の判決を言い渡し、90年に最高裁で確定した。だが99年に仮出所した宮田さんが2012年に請求した再審を熊本地裁も福岡高裁も認めた。最高裁は検察の特別抗告を昨年10月に棄却して再審開始が確定した。宮田さんは「シャツの袖を切り取って小刀の柄に巻き付け、犯行後に燃やした」と自白していた。しかし弁護団が請求した証拠開示で袖が検察に保管されていたことが判明。鑑定で小刀では不可能な傷があることも判明した。
このため検察側が有罪立証や求刑を断念し、2月8日の再審初公判は即日結審していた。三角恒主任弁護人は「最初に虚偽の自白をし罪状認否でも認めてしまったので一審は事実上情状酌量だけ。裁判所に提出された証拠品も小刀だけでした。再審請求も年月がかかってしまったし、高齢で何次も請求するわけにいかず、ほっとした」と話す。つまらない喧嘩殺人だと簡単に処理した事件こそ、とんでもない瑕疵があることを司法関係者は肝に銘じるべきだ。
(粟野仁雄・ジャーナリスト、2019年4月19日号)