くたばれGNP
高橋伸彰|2019年5月14日5:14PM
しかし、欧米経済にキャッチアップしてから久しい現在では、経済成長に対する国民の思いや期待は大きく変化している。特に、「改革なくして成長なし」の小泉純一郎政権以降は成長目的の過度な規制緩和や民営化によって雇用条件が悪化したり、生活の安全が脅かされたりするケースが頻発している。それにもかかわらず経済成長を優先的な政策目標に掲げる政権は後を絶たない。
自民党政治を批判し2009年8月の総選挙で政権交代を果たした民主党(当時)も、菅直人首相の下で策定された『新成長戦略』では「2020 年度までの年平均で、名目3%、実質2%を上回る経済成長を目指す」と謳い、12年12月の総選挙で政権に復帰した自民党の安倍晋三首相も翌年6月に策定した『経済財政運営と改革の基本方針〜脱デフレ・経済再生〜』では「今後 10 年間の平均で、名目GDP成長率3%程度、実質GDP成長率2%程度の成長」を日本経済再生の目標に据えた。
これに対しイギリスの経済学者ミシャン(『経済成長の代価』)は、今から50年以上も前に経済成長が社会を豊かにするという考え方は論証もできないし日常経験の事実にも合わないと説いた。
また日本でも、朝日新聞がGNP(国民総生産)以外に豊かさを測る指標はないのかと疑問を呈し、「くたばれGNP」の連載を組んだのは49年前の1970年である。さらに21世紀に入ってからは国際的な計量分析によって、一人当たりGDPが1万ドルを超えると幸福度や生活満足度との関係は弱まるという結果も示されている。
事実を曲げる統計不正は言語道断だが、一人当たりGDPが約4万ドルに達しても、なおGDPの規模や成長率を政策目標に掲げるのは時代錯誤ではないか。
(たかはし のぶあき・立命館大学国際関係学部教授。2019年4月5日号)