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侮れない改元の麻酔的効果
西川伸一|2019年5月15日7:00AM
狙いどおり支持率は跳ね上がった。共同通信社が4月1、2日の両日に行なった全国緊急電話世論調査では、内閣支持率は3月の前回調査より9・5ポイント上がって52・8%に達した。
ところで、政治学に権威という考え方がある。権力は正しいので、権力の令することならその痛みを自覚せず進んで従おうという人々の心性を指す。権力の権威化が進むほど権力は支配しやすくなる。そこで、いかなる権力も自らの権威化に腐心する。たとえば「物語と歴史」を持ち出して権力の神聖さや偉大さを説くのである。
いみじくも首相は会見で、「令和」の出典となった『万葉集』について「1200年余り前に編さんされた日本最古の歌集であるとともに(略)我が国の豊かな国民文化と長い伝統を象徴する国書であります」と評した。改元にかこつけた権力の権威化の目論見が見え隠れする。国民に対するその麻酔的効果は決して侮れない。
さて、私は前回の当欄で、近藤正春内閣法制次長の昨年3月に延長された定年が、今年3月末日に迫っていると指摘した。このままでは、はじめての長官になれなかった次長として退官してしまうと。
なんと内閣法制局はその3月末日付で、彼の定年をもう1年延ばすきわめて異例の人事を決めた。理由は「天皇陛下の退位をめぐる憲法問題について、専門知識を有しているため」という(3月31日付『産経新聞』)。昨年の延長理由も同じだった。これでは定年の意味がなくなる。天皇の政治利用ならぬ行政利用ではないか。
(にしかわ しんいち・明治大学教授。2019年4月12日号)