〈強欲〉より〈共感〉の資本主義を
佐々木実|2019年5月16日7:00AM
「他者とのつながりを求める」作用があるオキシトシンは、快楽神経化学物質であるドーパミン(脳の報酬を得るために繰り返す)、セロトニン(不安を和らげる)を分泌するという。
〈オキシトシンは共感を生み出し、共感が原動力となって私たちは道徳的な行動をとり、道徳的行動が信頼を招き、信頼がさらにオキシトシンの分泌を促し、オキシトシンがいっそうの共感を生み出す〉
著者のザックは、競争と信頼のバランスがとれた市場経済をオキシトシンに起因する「共感」を軸に構想しようとしている。
〈共感の不在は勝者総取りの状況につながり、それが信頼や、信頼がもたらすそのほかの向社会的行動を衰えさせる。生き延びることで頭がいっぱいのときには、オキシトシンの分泌が妨げられるだけでなく、消費意欲が下がり、それがしばしば景気後退への第一歩になってきた。長期的に栄えるためには、どんな市場も(いや、ビジネスも社会も)、信頼とオキシトシン分泌と互恵主義の「善循環」を維持する、公正で明確で施行可能な取引の規則を必要とする〉
神経経済学という新学説を評価する知見はもたないが、すでに賞味期限切れとなっている市場原理主義者の空理空論より、よっぽど思考を刺激してくれることは確かだ。
(ささき みのる・ジャーナリスト。2019年4月19日号)