リニア初の建設差し止め訴訟
山梨県南アルプス市
井澤宏明|2019年5月30日10:38AM
住宅地の真上を通るリニア中央新幹線の巨大な高架橋によって静穏な生活が破壊されるなどとして、山梨県南アルプス市の沿線住民が5月8日、事業を進めるJR東海を相手取り、同市内の建設工事差し止めや慰謝料を求める訴訟を甲府地方裁判所に起こした。
提訴したのは「南アルプス市リニア対策協議会」の8人。同協議会は昨年4月、JR東海がリニア建設用地として幅約22メートルしか移転補償の対象としないことなどに異議を唱え、甲府簡易裁判所に民事調停を申し立てたが、不調に終わった。
提訴後、会見した同協議会代表で原告の志村一郎さん(77歳)は「最後の手段という気持ち。JR東海とは何回も話し合ったが、沿線住民の生活に配慮していないことがはっきりした。少なくとも正当な補償を求めたい」と訴えた。
訴状では、リニア建設予定地になったために、原告の土地や建物の価値が低下、将来の生活設計が台無しになり精神的苦痛を負っていると主張。高架橋が建設されリニアが開業すると、公害が起こり健康被害をもたらすと指摘する。
具体的には、(1)高さ30メートルの高架橋の日陰になり、冬至には日照が1時間に (2)早朝から深夜まで6分間隔で車両の騒音や振動にさらされる――などを挙げる。
原告のトマト農家・河西正廣さん(71歳)は、リニアにより農地が分断される。「リニアで利便性が良くなると言われているが、我々にとって、『百害あって一利なし』です」と語気を強めた。
差し止め請求の対象は同市内の約5キロだが、代理人の梶山正三弁護士は「全部の計画に対してNOと言っている」と説明する。
リニアを巡っては、国の事業認可取り消しを求める行政訴訟が東京地裁で続いているが、JR東海によると、建設差し止めを求める民事訴訟は初めて。提訴を受け、「裁判において当社の考えを説明してまいります」としている。
(井澤宏明・ジャーナリスト、2019年5月17日号)