医療に「市場」はなじまない
佐々木実|2019年6月9日7:00AM
では、医療を宇沢流「社会的共通資本モデル」で捉えればどうなるか。「患者の負担は医療サービスに対する対価とは性格を異にする。それは共同(筆者注:医者と患者の共同)の事業に対する寄与であり、その額をどうするかは市場とは別の基準によって決められるべきである」。社会的共通資本モデルにおける医師と患者の関係は、社会学者パーソンズが唱えた「共同の企て(common undertakings)」に類似するとも間宮教授は指摘している。
「医師―患者」の共同関係は、学校における「教師―生徒」についてもあてはまるだろう。実際、宇沢は教育を重要な社会的共通資本とみなした。教師と生徒の関係を、教育サービスを売買する関係として捉えてはならない。それが社会的共通資本の教えである。
医療や教育では「治す―治される」「教える―学ぶ」のように関係に非対称性がある。実際にこうした仕事に携わっている人なら、小難しい理屈抜きで「社会的共通資本」の考えを感覚的に受け入れるだろう。わざわざ新しい学説として提示しなければならない理由を理解しかねる人すらいるかもしれない。
シンポジウム「社会的共通資本としての医療」を聴講して、社会的共通資本の経済学が「現場」に根差す実践的な理論であることをあらためて認識することができた。まりさんの場合、実際のところどうだったのか、今度会うときにたずねてみようとおもっている。
(ささき みのる・ジャーナリスト。2019年5月24日号)