なかにし礼さん
小室等|2019年6月12日7:00AM
以後、礼さんの、文化、芸術、芸能への思いはもちろん、反戦、憲法、脱原発など、おりにふれての発言を目にするたびに、なかにし礼さんへの尊敬の念は上書きされてきた。
とりわけ、芸能界の大勢は現政権とおおむね一体と言ってもいい今、礼さんの
「安倍首相は岸信介教の熱狂的信徒にすぎない」(二〇一四年五月三日付『日刊ゲンダイ』)
と公言してはばからない雄を振るった発言に、僕の礼さんへの尊敬はいやましなのだ。
そんな礼さんは、日本人として、同じ詩人として、東北・三陸海岸を日本列島・本州の背中と見做す詩人の『背中の地図』という詩集を、知ってもらう必要に駆られたのだと思う。
金時鐘さんの、「在日」という立ち位置だからこそ持ち得た、地震後の日本人への深い愛と慈しみを、礼さんは日本人に知らせたかったのだ。
残酷で悲しい旧満州からの引き揚げを八歳で体験した自分だから読みとれた金さんをみんなにも読みとってほしかったのだ、未来の日本のために。
(こむろ ひとし・シンガーソングライター、2019年5月31日号)