どうなる高齢ドライバーの免許問題
総合能力判定求める声も
吉田啓志|2019年6月13日4:47PM
【事故時の「責任回避」を狙って「認知症」と診断する例も?】
認知症の人は15年時点で約520万人。25年には700万人に達する見通しだ。彼らの事故リスクが高いのは否定できない。ただし、認知症でも病種によって運転能力は異なる。認知症でなくとも、加齢に伴い運動機能や反射神経は衰える。
また、免許取り消しの最終判断を医師の診断に委ねている現状では、「事故を起こした時に責任を問われるのを嫌い、認知症でない人まで認知症と診断する例も疑われる」(認知症専門医)という。
日本老年精神医学会は16年11月、改正道交法を「認知機能の低下による運転不適格者であることと、『認知症』と診断されていることは必ずしも同義ではありません」と問題視し、総合的な運転能力の判定に向けて実車テスト導入などの検討を求める提言書を政府に提出した。当時同学会理事長だった新井平伊・アルツクリニック東京院長は「記銘力(新しく体験したことを覚える能力)に障がいがあっても安全に運転できる人はいる。認知症の有無で運転技能を判定するのは適切と言い難い」と指摘。道路標識などの基礎知識を問う学科試験と実車試験を課す高齢者用の運転免許新設を提言している。
スイスなどでは、地域や時間帯を限定した条件付き免許を発行している。自動ブレーキなどの技術も進んできた。海外の事例も参考に、交通安全と高齢者の足の確保両立に向けた策を議論する時期にきている。
(吉田啓志・『毎日新聞』編集委員、2019年5月24日号)