なぜ山本太郎現象か

雨宮　今、山本太郎現象が台風の目のようになってきています。この現象はなぜ起きたと思いますか。

中島　非常に平易な形で、広範な貧困に「言葉」を与えてくれたということではないでしょうか。同時に、「僕、知らないんです、教えてください」と言える政治家であるというところです。

雨宮　山本さんも最初から「消費税減税」と言っていたわけではないですもんね。現場の声を聞いてきたことが大きい。15年から毎年、炊き出しの現場に来ていますし。そこにはロスジェネも多いですし、生活保護で暮らしている人もいますが、「本当に何とかしてくれ」と言われる機会が多かったそうです。それで、どうやったらいいかと考えて、消費税減税という方向にいったのでは。現場の切実な声を聞いて考えていった感じがするのですね。

中島　月末に小銭しかない、エアコンのスイッチを押すべきか考えてしまう、そういう人々のことを山本さんは考えている。それは当然の争点だと思います。そこを安倍内閣に対する「上下問題」として先鋭化させるべきです。

雨宮　派遣村が注目を集めてから10年経ちますが、貧困はむしろ当たり前になってしまいました。その分、メディアも注目しないし、当事者も救済されていません。消費税が増税されたら死ぬな、と感じます。
現に、自殺した人をいっぱい見てきたし、病気で孤独死する人もいました。保険証を持っていないし、看病してくれる人もおらず、ちょっとした風邪から肺炎になり、死んでしまう。炊き出しの現場でも餓死寸前で来る人がいますし、実際年間に何十人か餓死しています。簡易宿泊所の火災で死ぬ人も毎年のようにいます。

中島　立命館大学教授の松尾匡さんは著書の中で、経済成長を二つに分けて考えなければいけないと説明しています。たとえばコップに６割水が入っていて、右肩上がりのときはコップを大きくすることが経済成長でした。一方、そのコップにはあと４割水が入るはずで、松尾さんはその欠けている４割を埋め、コップが本来持っているポテンシャルまで引き上げることが、「短期の成長」だと言って、区別しています。
ＧＤＰ（国内総生産）ギャップを埋め、失業を解消して、完全雇用の状態まで持っていくことが「短期の成長」で、水をもっと注ごうとする景気対策が重要になります。
肝は投票率アップ

雨宮　選挙もお祭りの一つですから、みんなで盛り上げて投票に行く、という雰囲気が必要ですよね。民主党の政権交代でも投票率があがったじゃないですか。安倍政権にとって一番、怖いのは、投票率が上がることなんですね。

中島　そうなんです。日本で、支持者の構成比は、２・５・３と言われるんですが、２が絶対に自民党に入れない人たち、３が絶対に自民党に入れる人たち、変動はありますが残りの５くらいが浮動票なんです。安倍首相は、「５は寝ててくれ、３対２で勝つから」というやり方です。でも、３は業界団体の弱体化によって減っているんですよ。ただ２の方も同じく減っている。ともに高齢化に伴って。とはいえ、比率としては、まだ自民党への投票者の比率が高いですから、縮小する固定層に依存した選挙を続けているんですね。
投票率を上げないためには、選挙前に争点を作らないようにします。だから、野党側にとって重要なのは投票率を上げることなんです。これまで投票に行っていなかった層に投票してもらうことと、３を崩すこと。この二つが今の山本さんにできることなんです。でも、山本さんに足りない部分もあるんです。なので、山本さんと既存の野党との役割分担といったものが必要だと思います。山本さんは全国比例で戦って、１人区では野党の応援に入るなど。

雨宮　山本さんと他の野党とがぶつかり合うという構図だけは避けたいです。今は「安倍打倒」という最終獲得目標をはっきりさせ、対立をせず、いかに両者の相乗効果を生むようにするか、を考えることが必要だと思います。

６月20日、東京工業大学にて

まとめ・写真撮影／渡部睦美（編集部）
2019年６月28日号