ローマ字表記は「姓・名」順に
西川伸一|2019年7月14日4:32PM
国語審議会が文相に答申したのは同年12月8日である。そこで推奨された「姓・名」順の表記について、翌日付『毎日新聞』の社説は「それで支障はないだろう」と評した。腰の引けた印象を与える。『読売新聞』と『日本経済新聞』は社説で取り上げなかった。
答申を受けて、02年度版から中学英語教科書はすべて「姓・名」順表記に揃っている。ただ、それ以上は顕著には広がらなかった。日本語を所管する文化庁は当時、政府機関、都道府県、国公私立大学、さらにマスメディアに対応を促したのだが。
その文化庁は近々再び同様の呼びかけをする方針だ。柴山昌彦文科相が先月21日の閣議後の記者会見で明らかにした。河野太郎外相も同日の記者会見で、日本人の姓名をローマ字では「姓・名」順で表記するよう海外メディアに要請する考えを表明した。
さすが『産経新聞』は5月31日付で「姓名ローマ字表記 首相官邸から範を垂れよ」と「主張」に掲げた。しかし、他紙の社説は沈黙している。『朝日新聞』は6月4日付投書欄に「ローマ字『姓→名』投稿を募集します」と記した。読者の意見を両論併記して済ませるのか。前日付には「『英語も姓から』に自国主義の影」との投書を載せた。
確かに、投書者が憂慮するとおり、現政権の文脈でこの方針が出されることを警戒すべきかもしれない。だが重要なのは、だれが言ったかではなく、何を言ったかではないのか。
「姓・名」順のローマ字表記が定着すれば、対米追従第一で植民地根性丸出しのAbe Shinzo政権も、一つだけいいことをしたと後世から評価されよう。
(にしかわ しんいち・明治大学教授。2019年6月14日号)