京アニ事件、過剰報道にクギ
「精神疾患持つ人らに配慮を」
岩本太郎|2019年8月9日5:11PM
アニメ制作会社「京都アニメーション」(京アニ)のスタジオ(京都市伏見区)で7月18日に起きた放火事件は日本国内のみならず海外でも大きく報じられ、瞬く間に世界的な大ニュースとなった。
数多くの人気アニメ作品を輩出してきた会社を見舞った、それも34人(22日現在)もの死者を出す惨劇だっただけに、悲しみや怒りの声が国境を超えて沸き起こるのは当然のことだ。ただ一方で気がかりなのは事件を引き起こしたとされる41歳の男性(20日に京都府警より逮捕状請求)の経歴をめぐり過剰なまでの報道や書き込みがさっそくネット上を中心に行なわれていることだ。男性の前科、さらには精神疾患、生活保護の受給歴があるとされることまでを、まだ事件の詳細も公表されないうちから犯行の要因であるかのように報じるメディアもあった。男性がかつて住んでいた茨城県の『茨城新聞』は男性が2012年に県内で起こしたという強盗事件にも言及。当時男性が住んでいた部屋の内部に警察の立ち会いで一緒に入った近隣住民の「物が散乱し、臭いもひど」かったなどとする証言も交えて20日付けで報じた。
【「全世界から批判されている」? 当事者が覚える恐怖感】
そうした中、精神保健医療福祉に関わるさまざまな情報の提供を行なっている認定NPO法人地域精神保健福祉機構・コンボ(千葉県市川市)は今回の京アニ事件の報道に関して、精神疾患、精神障がいを持つ人たちの立場や気持ちに「配慮した記事づくりをお願いいたします」と訴える要望(URL https://www.comhbo.net/?page_id=22905)を20日に発表した。同団体が発行するメンタルヘルスマガジン『こころの元気+』の編集長を務める丹羽大輔さん(コンボ事務局)は要望を出すに至った経緯を次のように説明する。
「事件発生翌日の昼頃には私どもの会員さんより、放火したという男性について『精神疾患がある』『訪問介護を受けていた』とする報道がラジオやサイトで流れているとのメールが届きました。こちらでもサイトの記事を確認のうえ、その日の17時半にはラジオの放送局に電話をかけ、窓口の担当者に『何のためにそれを報じるのですか』と尋ねましたが『サイトの問い合わせフォームから送ってください』と言われたほか、広報局をはじめとする担当部署に尋ねても同じ対応をされるばかり。一方で他のメディアの一部でも同様の報道がなされていると知ったことから、こちらの姿勢を自らメディアや世の中に訴えていく必要があると考えました」
要望は、精神疾患のあるコンボ共同代表の宇田川健さんが執筆。精神疾患や精神障がいを持つ人たちとの間で「気持ちを共有する」意味も込めたという。前述の通り事件が世界的な関心事となり、海外メディアでも放火したのが「精神障がいを持つ男」だったと報じるところが出るに至り、そうした人たちには「自分が世界中から攻撃されているのではないか」との恐怖も与えるほどの状況になっているという。「大阪府の池田小学校での殺傷事件(01年)など、こうした事件のたびにそうした声が上がりました。中には少数ですが『自分が事件を起こしたのではないか』といった気持ちになった方もいます」と丹羽さんは言う。人目を気にして外出できなくなったり、仕事探しや家探しに支障を来たした例なども過去にはあったそうだ。
放送局からコンボには最終的に回答はあったものの、丹羽さんによれば「ご指摘も受け止め」「より一層丁寧で配慮した放送を」といったものだったとか。
先の『茨城新聞』の記事については22日の午後、私から同社の報道部に「過去の犯歴を詳細に報じる必要があるのか」と電話で問うと「そちらにお答えするようなことではない」「質問なら書面で送るように」(具体的な送り先や送付方法を聞いても回答せず)と、こちらも紋切り型の回答だった。こうした「報道被害」を生みかねない事例は今回は他にも数多く生じているのではないかと思われる。憂慮すべき状況だ。
(岩本太郎・編集部、2019年7月26日号)