自由と権利を守る不断の努力
阿部岳|2019年8月15日12:00PM
警察が法的根拠もないまま、主権者が為政者に抗議する権利を奪う。異常事態を、周囲はただ傍観していた。メディアもその中にいた。この女性は「後日取材してきた新聞記者さんに『わたしもあの場にいたけど、みんな黙って見てて異様な光景でした』みたいなことを言われて笑ってしまった。見てたならあなたが加勢してくれればよかったんだよ」と明かしている。
加勢するかどうかは別として、警官に法的根拠をただすことは取材の一環として必要だったのではないか。排除の事実を報じたのもネット上で問題が広まった後で、反応は鈍かった。
高江の市民が言ったように、これはメディアにとっても「対岸の火事」ではあり得ない。高江では強制排除の様子を取材していた沖縄2紙の記者2人が機動隊員に拘束された。腕章を示し、記者だと伝えても、解放されなかった。日本国憲法下で前代未聞の報道弾圧だった。
記者拘束を批判された安倍政権は当時、「現場における混乱や交通の危険防止などのための必要な警備活動」との答弁書を閣議決定し、正当化した。理論上はすでに全国どこでも同じことができるようになっている。
安倍政権の信任は、市民の自由と権利を蝕む。そのことを身をもって知る沖縄は、今回も野党候補を勝たせた。全国では、改憲勢力が3分の2を割り込んだ。政権支持は底堅いが、一定の歯止めはかかった。憲法が定める通り、自由と権利を守る不断の努力が続く。
(あべ たかし・『沖縄タイムス』記者。2019年7月26日号)