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福島県、避難者に家賃2倍の「損害金」請求

藍原寛子|2019年8月19日12:09PM

福島県に対して抗議文を提出する避難者の山田俊子さん。(撮影/藍原寛子)

参議院選のドサクサに紛れて福島県は、原発事故で避難し、全国の国家公務員住宅で暮らす63世帯に対して、家賃と駐車場代を合わせた使用料(家賃+駐車場代)の2倍を「損害金」として支払うよう求める請求書を避難者に送りつけた。「損害金」は1世帯当たり月約2万円から15万円にのぼる。

「パートで働きながら通院し、何とか生活している状態で、県から9万円も請求された。とてもじゃないけど払いきれない。転居したらパートも、慣れてきた病院へも行けなくなるかもしれない。60歳未満なので都営住宅も入居対象外。せめて転居先が決まるまで待っていてほしいだけなのに……」

請求書を受け取った避難者の女性が失望と不安を口にする。支援者からも「不当な懲罰的意味合いのある高額請求が避難者を追い詰める」と批判の声が上がる。

県は2017年3月、みなし仮設住宅の無償化を打ち切ったが、「急な追い出し政策だ」と批判が高まった。そこで県は民間賃貸住宅やUR住宅の避難者に対しては2年間の激変緩和措置を行なうと同時に、国家公務員住宅に関しては財務省と協議し、19年3月までの2年間に限り、国家公務員と同額で入居できる「セーフティネット契約」を避難者と結んだ。そこに「2年後に退去しなければ、県は2倍額の損害金を請求する」という内容の条項が盛り込まれた。

内堀雅雄知事は7月16日の記者会見で「契約通りに請求した。未退去世帯には丁寧な対応を取る」と述べたが、原発事故に責任のある立場の国や県が、避難者の実情を無視して、代替支援策も不十分なまま、「契約だ」と紋切り型で退去を迫る、この対応を追い出しと言わずして何というのか。福島県復興計画は「平成32年(=令和2年)までに避難者ゼロ」の目標指数を掲げるが、指数達成と引き替えに生活困窮や自殺、病気の悪化など、さらなる危機を加速する可能性がある。

【背景には政府の思惑か】

「1年ほど前からやっと働けるようになりましたが、到底家賃を支払える状態ではなく、住むところがない。追い出すことだけはしないで」(南相馬市からの避難者)

「子どものために無我夢中で子育てして築いた今の生活を壊さないで」(妊娠中に避難した女性)

原発事故から8年、避難生活の中での病気、子どもの学校や進学、転居先確保の難しさ、生活困窮、身寄りのない人、離婚したシングルマザーなど、生活環境が激変して、すぐには退去できない複雑な事情を抱えた人が増えている。

7月12日には「避難の協同センター」世話人の熊本美彌子さん、事務局長の瀬戸大作さん、原発事故被害者団体連絡会の村田弘さん、武藤類子さんらが、「入居者の生活実態の把握、説明会の実施など、最低限の事前対応措置を取るよう求めたのに、何ら納得できる説明がないまま今回の強硬措置に至った。原発事故被害者の生存権をも否定する暴挙。今回の措置を取りやめ、避難者の現状に本当に寄り添った対応を取るまで、当事者が取るあらゆる正当な行動を全面的に支え続ける」とする抗議文を、1万3338人の署名(提出時現在)を添えて提出した。

県は退去を求める姿勢は崩さず「個別の事情に合わせて新たな住まいが見つかる支援をしたい」と答えるに止まった。村田さんは「生活保護や公営住宅入居確定者には新たに財務省から借り受けて継続入居を認めており、その他の避難者にも『やってできないことではない』はず。ただ、福島県がここまで頑なに『2倍請求』にこだわる背景には、無償で頑張っている避難者への対処を視野に、『ここでケリをつけろ』という政府の意思があり、内堀知事もこれに同調している実態が隠されているのではないか」と指摘する。

「いつまでも居座るつもりなんてないです。ただ、次の住まいがなかなか決まらない。それと、福島県が県外避難した県民に対して『居させてあげているんだ』という態度が本当に悲しいです」

南相馬市から避難している女性が声を落とした。

(藍原寛子・ジャーナリスト、2019年7月26日号)

 

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