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EU次期委員長に初の女性、フォンデアライエン氏

神野直子|2019年8月30日8:37PM

今年10月末に退任するジャン=クロード・ユンケル欧州委員会委員長の後任を選ぶ投票が7月16日、欧州議会で行なわれ、ドイツのウルズラ・フォンデアライエン国防相(60歳)が選出された。欧州連合(EU)の政策執行機関のトップに女性が就任するのは初めて。投票では賛成383票(反対327票)と承認に必要な過半数をわずか9票上回っただけのまさに薄氷の勝利だった。

反対が多かった一因は、フォンデアライエン氏が5月に行なわれた欧州議会選挙に立候補していなかったことにある。人事の透明性を高めるため、選挙で獲得した議席数が最も多い会派の筆頭候補者が委員長候補として推薦され、議会の承認を得る手筈となっていた。つまり、今回の選挙結果だと保守中道の欧州人民党グループ(EPP)が筆頭候補としていたドイツのマンフレート・ウェーバー氏が推薦されるはずだったのだ。

だがウェーバー氏に閣僚経験がなく、国際政治の場では役不足であることを理由にフランスのマクロン大統領をはじめとする各国首脳が反対。他会派の筆頭候補者でも一致できず、人選は難航を極める中、同大統領がブリュッセル生まれで仏語も堪能なフォンデアライエン氏を提案し、ようやく合意が得られた。しかし選挙という民意の洗礼を経ない「密室政治」による候補者は容認できないとして、フォンデアライエン氏が副党首を務めるキリスト教民主同盟(CDU)と連立政権を組むドイツの社会民主党(SPD)も強硬姿勢を見せ、反対に回った。

【独メルケル政権下で実績】

フォンデアライエン氏は医師としてキャリアを積み、博士号を取得後にニーダーザクセン州首相を務めた父親の跡を追って42歳で政治家の道へ。プライベートでは7人の子どもを持つ母親でもある。

2005年の第1次メルケル政権に家族相として就任。出産育児をする家庭の支援策として両親手当の導入や託児所の増設など出生率アップにつながる施策を次々と打ち出し、一時はメルケル首相の後継候補とも目された。13年には最も難しい官庁とされる国防省の初の女性トップに。連邦軍の汚職問題や右翼思想を持つ兵士による大統領暗殺未遂事件など相次ぐスキャンダルの対応に追われ、思うような実績こそあげられなかったものの、「EU軍」創設について積極的に発言し、国際的な存在感を見せつけていた。

承認投票前に行なわれた英独仏3カ国語を駆使した演説でフォンデアライエン氏は、喫緊の課題として気候変動問題への取り組みを挙げ、CO2排出量を30年までに少なくとも1990年水準の50%に減らし、50年までに実質ゼロとする目標を盛り込む法案を着任100日以内に提出すると表明。さらに共通の最低賃金制度の枠組み構築、EU委員会の委員男女比を同じにすることなどを掲げた。

そして解決の糸口が見えない難民問題では、EU国境に位置するイタリアやギリシャの負担軽減をすべく、難民が最初に到着した国で保護申請手続きをすると定めたダブリン規約を見直すことを提案。EU国境警備体制を強化することにより不法入国者を規制し、真に保護を必要とする難民には安全な欧州への移動を保障することなどを盛り込んだ新たな移民・難民政策協定の作成を約束した。

「時間を無駄にするな、実行あるのみ」という言葉を子どもたちから贈られたというフォンデアライエン氏。休む間もなくパリ、ベルリン、ワルシャワへ飛び、11月1日の就任に向けて準備を全速力で進めている。

しかし英国のEU離脱問題(ブレグジット)をはじめ、右派勢力の台頭などによってEU各国間にできた亀裂はかつてないほど大きく、EU組織の存在意義を問う市民の声も無視することはできない。

対外的にも米国との貿易摩擦問題や軍事力を増すロシアへの対抗策など課題が山積する中、どのような手腕で公約を果たしていくのか、次期委員長には期待とともに厳しい目が注がれている。

(神野直子・在独ジャーナリスト、2019年8月2日号)

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