スマホは戻ったけれど
小室等|2019年9月4日7:37PM
二〇一七年一〇月一二日、栃木県那須塩原市大山公民館で仕事を終え、送られて夜半にわがマンションに到着。植え込みの前の歩道にギターやら土産の野菜やらipadを入れたハンディータイプのキャリーバッグを荷下ろしし、家へ入って寝酒をやって就寝。朝起きたらキャリーバッグがない。
暗闇の歩道に置き去り? 急いで行ってみるが、朝を迎えて人の行き交う歩道にあるわけがないよね。急いでアップル社にロックをかけてもらい、パソコンからGPSで居場所を追跡。刻々と移動し、最後は荒川河川敷あたりで消えた。一九日からフランスのナント市に行く予定だったので、旅先用に急いで新たにiPadを購入した。
あれから二年近くになろうとしている今年六月末、見知らぬ人から「もしかしてiPadを失くされた?」と家の固定電話に問い合わせが入った。すっかり忘れていた、紛れもない消えた僕のiPad。そう、アップル社が、誰かが開いたら僕の電話番号と連絡ほしい旨が表示されるようにしてくれていた。
連絡してくれたその人は便利屋さんを商売にしている人で、廃品回収業者から入手した物の中に僕のiPadがあって、わざわざ連絡してくれた上に、親切にもわが家のそばまで届けてくださった。
iPadが戻ってきた六月末、長年のガラケーからスマホに乗り換えた。ご推察通り、取り扱い遭難状態。右往左往している間に、七月一一日、京都から福山に向かう新幹線車中でスマホがないことに気付く。家人と連絡を取り、家から京都駅に連絡してもらい、アップル社にはロックの手続きをしてもらい、これまたGPSで追跡。
足跡は福山を通過、博多、東京、大井南と移動し、一二日になって新大阪忘れ物承り所から連絡をもらう。大井南には新幹線の車両基地がある。そう、スマホは新幹線車内に居続け、博多―東京間を行ったり来たりしていたらしい。
タブレット、スマホが発見されたのはめでたいが、それでいいのかな。管理され過ぎじゃない?
この旅の直前七月六日、認定NPO法人ゆめ風基金の恒例「ゆめ風であいましょう」(東京・板橋区立グリーンホール)のゲストに、詩人アーサー・ビナードさんを迎えた。友人のアーサーはケータイを持たず、したがって連絡がチョー取りにくく、アメリカの言いなりにならない在日アメリカ人だ。
一方、虎の威の盾は世界中が知っているのに、ドナルドなどと呼びつけにし、アメリカ大統領から友達認定を受けたと言わんばかりに得意げな(僕がアーサーと言うのと訳が違う)人の、無自覚な知性レベルにはあきれるばかりだ。
(こむろ ひとし・シンガーソングライター、2019年7月26日号)