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地球温暖化対策に逆行
バイオマス発電が森を破壊する
満田夏花|2019年10月24日3:36PM
インドネシアで大規模な森林火災が発生している。9月12日までに93万ヘクタールが消失した。火災原因の一つとして、パーム油原料のアブラヤシ農園造成のための火入れが指摘されている。
パーム油は日本にも現在年間75万トンほど輸入されているが、これを燃料とするバイオマス発電により、今後さらに大量に輸入されようとしている。バイオマス発電は「環境負荷の低減」という大義名分で、固定価格買取(FIT)の仕組みのもと、電気料金に反映される形で促進されている。しかし、これらの計画はむしろ森林や生物多様性を破壊し、気候変動を加速化させている。
パーム油は世界で最も消費量が多い植物油で、インドネシアとマレーシアが主な生産地だ。加工食品などの食用として8割、工業用などに2割が使われている。だが急速な消費量の増大とともに、アブラヤシ農園が拡大している。
インドネシアとマレーシアでは過去20年間に約350万ヘクタールもの熱帯林がアブラヤシ農園に転換された。国際パネルのIPBES(生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム)は最近、生物種のおよそ100万種が今後数十年間のうちに絶滅する恐れがあるとするレポートを発表した。その最も大きい原因として土地利用変化をあげており、とりわけ東南アジアではアブラヤシ農園開発が森林減少の主要因としている。
広大な土地を企業が囲いこむことにより先住民族など住民の生活の場であった共有林を奪う、危険で低賃金の劣悪な労働環境など、社会的な問題も指摘されてきた。
【問題のH.I.S.発電所もなお建設工事続行中】
熱帯林や泥炭地の開発によって膨大な量の炭素が二酸化炭素(CO2)として放出される。その分を加味すれば、パーム油発電は石炭火力発電の2倍以上ものCO2を発生することになる。
泥炭地は水に浸かった条件下で植物体が分解されず堆積したものであり、地球全体で見れば地上の炭素の30%を貯留する。その上に形成された森林が伐採され乾燥化すると、そこに蓄えられていた膨大な植物体が分解し、CO2が発生する。パーム油だけではない。前記以外でも、海外から輸入されるバイオマス発電燃料は栽培・加工・輸送なども含めればLNG(液化天然ガス)と同等、もしくはそれ以上のCO2など温室効果ガス(GHG)を排出するのだ。
日本では旅行大手エイチ・アイ・エス(H.I.S.)が宮城県角田市でパーム油を燃料として41メガワットのバイオマス発電所を建設中で、原料として年間約7万トンのパーム油を輸入する(本誌6月7日号参照)。H.I.S.は2017年2月にFIT認定を取得しているため、1キロワット/時あたり24円の価格で20年間の買い取りが保証される。これに対してFoE Japanなど20の環境団体が反対署名を開始。今年7月30日までに14万8588筆の署名を集めてH.I.S.に提出した。しかし工事は今も続いている。
18年12月現在、FITの認定を受けたパーム油発電所計画は合計170万キロワット。このすべてが稼働すると、年間340万トンものパーム油が燃やされることになる。現在の日本におけるパーム油輸入量の5倍に相当する。
FIT制度には温室効果ガスの排出評価は含まれていない。そのため温室効果ガス排出量が化石燃料なみのバイオマス発電計画が、20年間も高い賦課金で買い支えられることになる。これが「ビジネス・チャンス」ととらえられ、多くの無謀なバイオマス発電が計画され、世界規模での森林の破壊に加担しているのだ。
9月23日に開幕した国連気候行動サミット。「私たちは絶滅に差し掛かっている」と声を震わせて訴えたグレタ・トゥーンベリさんの言葉に心動かされた人も多いはずだ。国民から集めた膨大な額の賦課金が問題のある事業に使われ続けることを許してはならない。一刻も早いFIT制度の見直しが必要だ。
(満田夏花・FoE Japan、2019年10月4日号)