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性虐待事件の控訴審開始
被害者が救われる社会へ

宮本有紀|2019年11月1日7:00AM

「被害当事者団体として被害者不在の司法に声を届ける活動をし、刑法性犯罪改正に取り組んでいる。刑法改正の検討委員会を開き、性暴力被害の理解者を半数以上入れることを要望する」と話す一般社団法人Spring代表理事の山本潤氏。(撮影/宮本有紀)

 

岡崎の件は、娘が中学2年の時から定期的に父が性交を強制していた実態も明らかになったが一審判決では親子が「強い支配従属関係にあったとまではいいがたい」と判断。子どもの虐待防止に尽力する認定NPO法人チャイルドファーストジャパンの山田不二子理事長は「逃げればいい、助けを求めればいいというのが裁判所の考えだろうが、実際には逃げられない。子どもの性被害をたくさん見てきた人間と裁判所の経験則はだいぶ違う」と批判。医師でもある山田氏は「診察した中には13回児童相談所に保護され、身体的虐待は打ち明けても性虐待は打ち明けられず、父親の元に帰されたことで、誰も助けてくれないと思ってしまう子がいた。大人は子どもを共犯者にして秘密を守らせることに長けている」と述べた。

同様に神奈川県中央児童相談所の三桝優子氏も「性的虐待は発見されにくい。なぜなら子どもは自分が悪いと思い込み、他言しないから。性虐待が長期に亘ると相手に順応した行動をとる子も多い。虐待者の機嫌をとれば自分も家族も酷いことをされないから自分から行くという子もいて、一見虐待行為を受け入れているように見える」と実態を話す。そして「性的虐待被害は点で起きるのではなく線で起きる」と強調し、山田氏も「反復・継続する性虐待で、いつ起きたかの特定は極めて困難。時の特定が立証要件にあることは性虐待立証のハードル」と指摘した。

精神科の臨床で、性被害者と向き合ってきた宮地尚子・一橋大学大学院教授は「なぜ逃げなかったか、抵抗しなかったかという問い自体が古い生物学的モデルに基づく指摘。凍りつく麻痺反応が起きる多重迷走神経という自律神経の働きと説明する学者もいて、治療に役立つ議論だ。トラウマの研究から、一見迎合しているように見える行為が、同意や誘惑や媚びではないということがわかってきた」と解説。「これらの理論や実態を専門家が知らないのは『非知』ではなく『無知』だと医学や法学の専門家たちが考える必要がある」と話した。控訴審の次回公判は12月13日。証人尋問の予定だ。

(宮本有紀・編集部、2019年11月1日号)

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