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「桜を見る会」追及で女性議員ら共闘
求心力失う安倍政権
木下ちがや|2019年12月5日10:12AM
それは、女性議員たちの連帯からはじまった。
11月8日の参議院予算委員会。日本共産党の田村智子議員が質疑において、毎年春に開催される安倍晋三総理大臣主催の「桜を見る会」が、年々参加人数と予算額を増加させていると指摘。さらに本来の趣旨から逸脱し、総理や自民党幹部の後援会会員を招待していると激しく追及した。この田村議員の追及が発火点となり、この「会」が安倍総理の後援会対策の一環であり、さらには「前夜祭」の夕食会の料金を安倍事務所が補填した政治資金規正法違反の疑惑にまでいま発展している。
この疑惑の追及とともに注目されるのが、女性議員たちの連帯である。同日の参院予算委員会では、質問する田村議員の背後に座っていた国民民主党の伊藤孝恵議員、矢田わか子議員が、田村議員の追及に調子をあわせて、頷き、エールを送り、歓声をあげ、委員会を総なめにしたのだ。
さらにツイッター上では、立憲民主党の蓮舫議員が「田村議員の質疑は見逃せない」と紹介。国民民主党の森ゆうこ議員、社民党の福島みずほ議員、そして先の参院選で当選した立憲民主党の塩村あやか、打越さく良両議員らも田村議員の質問を次々と拡散していった。
一方で田村議員は、次なる「前夜祭」の追及にあって、共産党だけではなく全野党と情報を共有する方針を打ち出した。これについて打越議員は「野党が一致団結して、安倍総理を追及するために、『前夜祭の怪』についても、隠し球にせず、共通認識へ。素晴らしい。有難うございます! そう、一致団結して追及しなくては!!」と意気衝天のツイートで応じた。
夏の参議院選挙では野党から数多くの女性議員が誕生した。野党が勝利した1人区の野党統一候補のうち半数の5人が女性である。野党共闘は単なる数合わせではなく、参議院の女性議員たちの党派を超えた連帯によって魂を吹き込まれることになった。
同じく11月8日の予算委員会で、安倍総理が立憲民主党議員に「共産党!」とヤジを飛ばしたことに対して、立憲民主党支持者らが「#共産党は仲間だ」、共産党支持者らが「#立憲民主党は仲間だ」とネット上でエールを交歓した。このような新しい動きが、野党に活力を与えている。
【「2017年の分裂」を克服 地方選で野党が攻勢に】
今回の「桜を見る会」疑惑は、2017年の森友、加計疑惑とは政治的背景が異なる。「モリカケ」の追及に対して安倍総理は、解散総選挙に打って出ることでかわそうとした。それに対し野党は「希望の党」騒動により分裂に陥り、与党の勝利を許してしまった。以後、安倍総理は自民党総裁三選に向けて党内統制を強化し、「モリカケ」の封じ込めに成功した。
ところが「桜を見る会」疑惑は、「ポスト安倍」をめぐる党内抗争のさなかに火が付いた。菅原一
秀、河井克行両大臣の醜聞辞任は次期総理と目されている菅義偉官房長官の追い落としの一環であり、盤石の体制に走る亀裂を「桜疑惑」はさらにおし広げているのだ。
そして野党は、17年の分裂の痛手から回復し、より一体感を強めている。共産党系候補である松本けんじ氏が出馬した高知県知事選の応援に、全野党の党首、国対委員長が駆け付けた。このような与党内の抗争状況、野党の一体化と攻勢により、安倍総理は今年度中の解散総選挙による危機回避を断念せざるを得なくなった。
安倍総理を辞任にまで追い込めるかどうかは、野党の攻勢と世論次第である。しかし、この間の闘争は安倍政権の求心力に取り返しがつかないダメージをすでに与えている。安倍政権の黄昏は、長く眠らされてきた民主主義の回復につながるのだろうか。
この劇的な状況への突破口を切り開いたのは女性議員たちである。このことは、わたしたちがこれから何を重視して行動し、声をあげていくのかを考えるうえで、大きな教訓となるだろう。
(木下ちがや・政治学者、2019年11月22日号)