「社会保障改革」高齢者医療負担増を中間報告に明記
骨抜き「全世代型」実現加速
吉田啓志|2020年1月24日4:39PM
【衆院解散をにらんだ「前倒し」狙いか】
首相周辺は「首相も当初はやる気がなかった」と漏らす。しかし、21年9月に自民党総裁の任期切れを迎えるなか、「長期政権のレガシー(政治的遺産)にこだわり始めた」という。最後までもつれた医療に対し、年金や介護は「ぬるい改革案」(厚労省幹部)で決着し、「全世代型」の目玉が乏しくなってしまっていたことが背景にある。さらに政官界には、衆院解散をにらむ首相が社会保障の負担増問題を前倒しして片付けておく方針に転じたとの見方も出ている。
中間報告の取りまとめとほぼ同時に20年度の診療報酬改定率も0・46%減で決着した。ただし、医師の収入に直結する「本体部分」は0・55%増で、自民党支持の日本医師会(日医)をギリギリ納得させる水準だった。自民党幹部は「財務省はハナから本体増額を容認していた。『75歳以上の窓口負担2割』を中間報告に入れるための取引材料だ」と明かす。
しかし、首相と財務省は日医の抵抗で「受診時定額負担」導入を明記することは見送った。これは外来患者に通常の窓口負担に加えて100円などを上乗せ負担させる「ワンコイン負担」と呼ばれる仕組みで、外来に高齢の患者が多いことを踏まえたものだった。
また、医療より先に方針が固まった年金では、物価や賃金が下がったときに給付額も下限なく減らすようにする制度強化は見送った。介護保険制度も同様だ。サービス利用時の自己負担割合(原則1割)に関し、現在2~3割負担となっている「高所得者」の所得基準を広げる案など、高齢者の負担増に直結する案は次々先送りした。高齢者の反発を恐れた弱腰で、「全世代型」の理念はふらついている。
全世代と言いながら、中間報告では「教育無償化を実施したばかり」として、子育て支援策に触れていない。自民党政調会の幹部は「最終報告で形ばかり子育て支援策を入れるにしても、全体の骨格は出そろった。もうやることはないよ」と語っている。
(吉田啓志・『毎日新聞』編集委員、2020年1月10日号)