法務省「収容・送還に関する専門部会」が罰則創設を検討か
「虚偽」前提の議論に批判
本誌取材班|2020年2月5日10:05AM
「これ、虚偽ですね?」。第1回目の会合から虚偽を含んだ資料を前提に議論が進められるなどして、問題視されている法務省の出入国管理政策懇談会「収容・送還に関する専門部会」。入管施設での長期収容問題を議論するため法務大臣が設置し、昨年10月から12月に計4回の会合が開かれたが、いわゆる「送還忌避者」に対して罰則を設けるべきなどの意見も出ており、懸念が広がっている。
冒頭の発言は、昨年11月28日の参議院厚生労働委員会で石橋通宏議員(立憲民主党)が宮﨑政久法務大臣政務官に投げかけたもの。第1回会合に先立ち入管庁が10月1日付で作成した配付資料に「虚偽」が含まれていたのだ。
資料には収容を一時的に解かれた「仮放免者」の「実態」として「社会的耳目を集めた事件」の事例を並べたページがある。事例は四つ。このうち「日本国民」が被害に遭ったとされる事例は一つ。2017年に発生した「神奈川県警警察官殺人未遂事件」だ。「加害者:ラオス人1人」「被害者:神奈川県警警察官1人」で、事件概要として「(加害者が)臨場した警察官の胸部を、自宅にあったサバイバルナイフで突いて殺害しようとした」と記してある。
しかし実は、逮捕時には殺人未遂容疑も含まれていたが、裁判になったのは公務執行妨害と銃刀法違反の2点のみだった。最終的に公務執行妨害については無罪となり、判決は18年3月に確定した。
「収容・送還問題を考える弁護士の会」が入手した判決文では、「(殺人未遂に関する)警察官の公判供述は信用できず」とまで言及されている。それにもかかわらず、判決確定から1年半以上も経った昨年10月1日付資料に、「殺人未遂事件」が載っていたのだ。
「殺人未遂事件ではないものを、法務省、入管庁がこうしてあたかも殺人未遂事件として、いかに仮放免者が何か悪いことをしているのかということを誘導するのは由々しき問題」(前出の参院厚労委にて)との石橋議員の投げかけに、宮﨑政務官は「(入管庁は同資料作成・公表の際に)刑事裁判の判決結果の確認を試みるというところには至っていなかった」と答弁した。これについて「弁護士の会」の駒井知会弁護士は「法務省が掲げる『日本国民の安全や利益』に反するという印象を与えるために記載された事例で、虚偽の事実を前提に専門部会で議論がなされ、立法に持ち込まれるとすると恐ろしいことだ。仮放免者らの処遇を司る入管庁または地方入管局が判決内容を確認していない可能性は現実にはゼロ」と指摘している。
【治安維持法の予防拘禁か】
「専門部会」では10月21日の第1回会合で「退去強制令書が発付されたものの本邦から退去しない行為」や「仮放免された者による逃亡等の行為に対する罰則の創設を検討すべき」などの意見が出たほか、11月25日の第3回会合でも「罰則を設けるべき」との意見が出た。12月12日の第4回会合については、いまだ法務省は議事録を公開しておらず、「公開の具体的日程は未定」という。
「弁護士の会」の指宿昭一弁護士は「専門部会での意見をもとに、部会が終わる今年3月以降『送還拒否罪』などの罰則が設けられる危険がある」と警鐘を鳴らす。移民・難民支援団体「収容者友人有志一同(SYI)」は昨年12月8日の年次報告会で「収容期間に上限を設けない限り、長期収容の問題は解決しない。要因をもっぱら『送還忌避者』に帰す専門部会の議論はおかしい」とした。
長期収容については、入管業務と関係ない「犯罪抑止」が収容目的の一つになっているという問題もある。当時の入管局長が仮放免の厳格化を指示した18年2月の「仮放免指示」では、仮放免許可に適さない者として「犯罪の常習性が認められる者や再犯のおそれが払拭できない者」などが挙げられている。「弁護士の会」の児玉晃一弁護士は「稀代の悪法、治安維持法下での予防拘禁でさえ『再犯の虞が顕著な場合』としていて、要件が厳しい。さらに裁判所の決定も必要だったが、長期収容は入管の判断のみで可能」とした。
(本誌取材班、2020年1月17日号)