吉田裕・一橋大特任教授が最終講義
戦争への怒り強調
伊田浩之|2020年3月2日12:16PM
日本近現代史の研究で知られる吉田裕・一橋大学特任教授(65歳)の最終講義「自分史の中の軍事史研究」が2月1日、東京・国立市の同大学であった。吉田さんは「研究の動機は戦争の不条理さ、残酷さに対する怒り。怒りを熟成させて『すんだ怒り・静かな怒り』に転化させていくのが研究者の仕事だと思う」と強調した。
敗戦直後の日本史研究の状況について、陸軍の正規将校だった藤原彰さん(1922~2003年)は、復員後の1946年に入学した東京大学文学部で「50年以上経過した時代でなければ、利害が絡んで客観的な評価ができないから、歴史研究の対象にならない」と教わったという。こうした学会の“常識”を苦にせず軍事史を中心とする日本現代史研究に従事した藤原さんに、吉田さんは一橋大学大学院で師事した。
吉田さんによると、戦後歴史学の側が軍事史に目を向け、その研究成果が実を結び始めるのは1990年代に入ってから。戦争体験を持たない戦後生まれの研究者(吉田さんはその第1世代)が中堅になることも関連したという。
吉田さんは、1982年に教科書検定が国際問題化し、アジア諸国と日本との歴史認識の落差にショックを受ける。日本軍による戦争犯罪の研究が立ち遅れていることも実感した。そして、南京事件関係の史料を調べるなかで、連隊史などの部隊史や兵士の回想、従軍日記などの歴史史料としての重要性に気がついたという。
兵士の目線で戦場を描いた吉田さんの『日本軍兵士──アジア・太平洋戦争の現実』(中公新書、2017年)はアジア・太平洋賞特別賞を受賞、幅広い読者を獲得した。
だが、日本では史料や文献を収集・保管・公開する機関があまりにも少ない。吉田さんが集めた貴重な歴史史料も日本国内では引き取り先が見つからず、約1万点は韓国慶山市の嶺南大学校が収蔵し公開することになったという。
(伊田浩之・編集部、2020年2月14日号)