「復興五輪」より「人の復興」を
脱原発首長会議、原子力政策を批判
佐藤和雄|2020年3月16日5:59PM
全国の市区町村長とその経験者でつくる「脱原発をめざす首長会議」が2月16日、原発立地自治体である福井県敦賀市で「脱原発へ2020敦賀フォーラム」を開催した。記者会見で「嘘だらけの原子力政策を見直し、全原発廃炉政策への転換を」と、福島第一原発の汚染水について「復興を妨げる海洋放出をしてはならない」ことを求める二つの緊急声明を発表。声明は、要望書の形で梶山弘志経済産業相に翌17日に提出された。
首長会議は「3・11」後の2012年に発足。原発立地自治体である東海村の村上達也村長(現在は元職)らが世話人となり、34都道府県の105人が参加している。
昨年夏、青森県六ヶ所村の再処理工場などを視察。日本原子力発電の担当者とも意見をかわしたうえで「六ヶ所再処理工場は廃止せよ」という声明を発表した。
その理由としては1核燃料サイクルの基軸であった高速増殖原型炉「もんじゅ」の廃炉が決定し、核燃料サイクル政策が破綻している2原子力委員会がプルトニウムの保有上限を現在の47トンとする新方針を決定し、再処理工場が稼働しても低い操業率にならざるを得ず、国民的負担が増す3高レベル放射性廃棄物の最終処分場の候補地についてまったく道筋が見えない中、稼働すれば膨大な高レベル放射性廃液や廃棄物が行き所なく蓄積される――を挙げた。
今回の緊急声明では、田中俊一・前原子力規制委員長が雑誌のインタビューで述べた「日本の原子力政策は嘘だらけでここまでやってきた。最大の問題はいまだに核燃料サイクルに拘泥していること」という発言を引き、「核燃料サイクル政策にはもはや政策的意義はない。『嘘だらけの原子力政策』は早急に見直し、全原発廃炉政策に転換すべきだ」と求めた。
同時に、若狭地域にある関西電力美浜3号機など稼働40年を超えた老朽原発3基の再稼働について「断じて認めてはならない」と強調している。
【「人の復興」こそ最優先せよ】
今回の声明は、原子力規制委員会による六ヶ所村の再処理工場に対する新規制基準適合性審査が山場を迎えていることから、政府の責任で見直し実施を求めた。
記者会見に先立つフォーラムでは、民主党政権時代に2030年代脱原発の方針を打ち出した「革新的エネルギー・環境戦略」を起草した伊原智人・元内閣官房国家戦略室企画調整官が講演。「2030年代原発ゼロ」を打ち出した経緯について、電源構成について、「ゼロ」「自然減で15%」「20から25%」といった三つのシナリオがあったが「国民的議論を経て、最終的に2030年代原発ゼロになった。野田(佳彦)総理、古川(元久国家戦略)担当大臣は、国民的議論によって15%はないな、という感じになった。自然減は国民の意思ではない。それが最終的な議論につながった」と明かした。
さらに日本で核燃料サイクル政策を見直す機会があったのは1海外で核燃料サイクルが中止になったタイミング2もんじゅの事故後3六ヶ所村の再処理工場のアクティブ試験前4東日本大震災後(革新的戦略決定時)5もんじゅ廃炉決定時――の五つがあったが、先送りされてきたことを説明した。
福島第一原発のALPS処理水(汚染水)の処分について、首長会議の声明は「政府が、海洋放出ありきで、農林水産業者との対話に臨もうとしても、信頼を基礎にした対話など到底不可能だろう」と指摘。そのうえで「『復興五輪』を謳う一方で、地元自治体や農林水産業者らの復興への努力を無にするようなことがあっては絶対にならない」と述べ、長期保管も選択肢に入れ、「地元関係者が十分に納得し、『人の復興』を最優先にした案」の決定を求めている。
この問題では、茨城県の大井川和彦知事が20日、国側の説明に対し、県内の漁業者が風評被害への懸念から反対姿勢を見せていることを踏まえ、「被災地の方々に同じ苦しみを味わわせることがないよう、白紙の段階でもう一度検討をしてほしい」と求めている。
(佐藤和雄・脱原発をめざす首長会議事務局長、2020年2月28日号)