熊本地裁、九州北部豪雨水害での行政責任を認定
岡田幹治|2020年4月21日7:05PM
【河川水害で住民側敗訴が続いた背景】
河川水害によって流域住民が被った損害については、「大東水害訴訟最高裁判決」(1984年)が厚い壁になっている。
この最高裁判決は、河川は道路などと根本的に違って制御困難であるうえ、河川整備には財政的制約などがあるため容易には行政責任を問えないという考え方に立ち、河川管理の瑕疵の有無は「河川管理の特質に由来する財政的・技術的・社会的諸制約のもとで」判断すべきであるとしている。
この結果、被災住民が裁判に訴えても、よほどのことがない限り河川管理に瑕疵があったとは認められなくなった。それまでは被災者が勝訴する判決が一審、二審では出ていたのに、これ以降はほとんどが敗訴する「冬の時代」が続いている(特殊な事情があった「多摩川水害訴訟」は原告勝訴)。
また国や自治体は、財政難の中で河川改修を先送りしても責任は問われないことを前提に、安易な河川管理をする傾向があった。
そうした中で出された熊本地裁判決について、原告代理人の板井俊介弁護士は「市町村が管理する小河川である水路についてではあるが、行政の河川管理における瑕疵を一部ではあっても認めた点で画期的な判決だ」と評価し、熊本市に対し該当水路や他の農業用水路で被害が起きないよう、ただちに措置してほしいと求めた。
また今本名誉教授は「この裁判で行政の河川管理の技術レベルが低いことが明らかになった。判決を機に国も自治体も危機感をもって被害の発生を防ぐことに真摯に努力してほしい」と話している。
近年、河川災害が毎年のように起き、甚大な被害を被った被災者たちは、国や自治体を相手取って損害賠償を求める裁判を起こしている。これから提訴しようと準備している被災者もいる。
その人たちにとって、この判決は参考にも励ましにもなるのではないか。
(岡田幹治・ジャーナリスト、2020年4月3日号)