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湖東記念病院事件、西山美香さんに再審無罪判決
粟野仁雄|2020年4月30日11:48AM
【大津地検は早々に控訴を断念】
西山さんは山本誠刑事(当時)の「飴と鞭」の取り調べに優しい男性と勘違いし恋してしまうが、同刑事の手法は狡猾で巧み。女性警官を取調室に入れず二人きりの状況で好き勝手な調書を作った。
西山さんが呼吸器を「外した」のにアラーム音を誰も聞いていない矛盾は、消音機能で解決する。消音ボタンは押せば音が止まるが1分後に再び鳴る。1分経たないうちに押せば鳴らない。山本刑事は西山さんが「頭の中で秒を数えて60になる前に押すことを患者が死ぬまで繰り返した」旨を供述したことにした。だが西山さんは当時そんな仕組みを知らない。それを知った経緯の供述がころころと変遷していることも大西裁判長が「誘導」を確信した理由だった。
「被告人の一人ひとりの声を聞いてほしい」との西山さんの言葉に衝撃を受けたという大西裁判長は「取り調べや証拠開示などが一つでも適切に行なわれていれば逮捕・起訴はなかったかもしれません」「刑事司法に関わる関係者が自分のこととして考え、改善に結びつけなくてはならない」とした。井戸謙一弁護団長は「西山さんが自ら『呼吸器を外した』と言ったのは事実で、自白の任意性については難しいかと思ったが否定してくれた。『自然死であり殺人ではないから無罪』だけでも判決文は書けたはずが、あそこまで不当捜査の問題に踏み込んでくれた。素晴らしい判決」と喜んだ。
少し前まで「山本刑事のことは思い出したくない」と話していた西山さんだが、会見で今後の国家賠償請求訴訟で同刑事が証人尋問される可能性が話題になると「何を言うのか聞いてみたいですね」と逞しかった。
この日、新型コロナウイルスの影響で通常は横一列6人掛けが2人に絞られたため高倍率となった傍聴券抽選を筆者は奇跡的に当てた。最前列で判決を待つ時、緊張していたマスク姿の西山美香さんと眼で挨拶を交わし、歴史的判決の一部始終を目に焼き付けた。大津地検は4月2日、早々に控訴を断念した。
(粟野仁雄・ジャーナリスト、2020年4月10日号)