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五郎ちゃんと大島監督
小室等|2020年5月7日10:26AM
コロナ騒ぎで、次々と予定が消えていくのを幸いとやせ我慢し、長年放置してきた、ゴミか資料かも判別できない山の整理に着手。 出てきたのは雑誌『街から』(2018-10 no.155)。パラっとめくれば、中川五郎の連載「人前で歌うということ40」。二〇一八年の夏から秋、五郎ちゃんのマイ・ブームは大島渚作品。俎上に上がっていたのは『日本春歌考』(六七年)。
〈その映画では当時若い世代に人気のあったフォーク・ソングが徹底的に馬鹿にされていた。鋭く批判されていた。もっともそこで馬鹿にされていたのは当時カレッジ・フォークと呼ばれていたおもに東京の大学生たちがやっていた、アメリカのモダン・フォーク・コーラス・グループの歌をそのまま英語でコピーして歌うもので、ぼくがやりたいと考えていた日本のフォーク・ソングとは似て非なるものだった。
それでもフォーク・ソングが大好きなぼくとしては、フォーク・ソングが思いきり馬鹿にされているというか、とことん軽蔑されているので、何ともいたたまれない気持ちになってしまった。大好きなウディ・ガスリーの「This Land Is Your Land」という歌が、東京の金持ちのお坊ちゃんお嬢ちゃんの大学生たちがわけも分からないまま楽しそうに歌っている馬鹿丸出しの歌、軽薄そのものの歌になってしまっているのだ。しかもそこでの大島渚監督の指摘というか、訴えようとしていることが当たっているだけに、ぼくはぐうの音も出なくなってしまうのだ〉
まったく五郎ちゃんに同感なのだが、もうひとつ別の感慨も持つのだった。というのも、馬鹿な学生たちのシーンの吹き替え演奏をやっていた一人は僕だからだ。大島映画の吹き替え演奏に抜擢されたとばかり、いそいそとスタジオに出向き、言われるままにピーター、ポール&マリーのコピー演奏をやって意気揚々と引き上げてきた。
ところができあがった映画を見に行ったら、五郎ちゃんの言うとおりの映画だった。裏切られた気持ち。大島監督は、礼儀正しいていねいなあいさつでスタジオに迎え入れてくれたのに。吹き替えシーンではスクリーンを直視できず、シートに顔を埋めていた。
でも、この映画のおかげで、たくましさを少しだけ手に入れたかもしれない。大島監督に感謝だ。
後日談。最近になってDVDで見直した。なんと、吹き替えシーンに僕たちの声がない。採用されてなかったのだ。暗闇でいたたまれずにいた僕は音なんか聞いてなかったんだね。ピーター、ポール&マリーのサウンドじゃ、お馬鹿な大学生には合わなかったのかも。
(小室等・シンガーソングライター。2020年4月3日号)