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少しずつ変わり始めた安倍首相会見

阿部岳|2020年5月7日9:53AM

「浮く」ことを覚悟して

次の特急列車で東京へ向かった。新型コロナウイルスに関する安倍晋三首相の記者会見が午後6時から予定されていた。

その前の2月末の会見で、安倍首相は事前に仕込んだ質疑をこなすと、36分で立ち去った。ジャーナリストの江川紹子さんが「まだ質問があります」と声を上げたのみで、政治部記者からは何の異論もなかった。首相官邸とメディアが共演する茶番劇。市民の批判は、全国メディアも地方メディアも関係なくメディア全体に向けられていた。

3月14日の会見も同様に打ち切られようとした時、私は「浮く」ことを覚悟して続行を求める声を上げた。驚いたことに、政治部の記者たちも同時だった。広がる怒号。私がさらに「総理、これ会見と呼べますか」と尋ねた声は、安倍首相に届いた。司会が即座に引き取り、会見は52分続いた。

その夜のうちに沖縄に帰った私が強い態度に出るのは、実は簡単なことだ。翌日以降、官邸から情報を取る必要がないから。一方、政治部記者たちがホームである官邸で筋を通すにはそれなりの覚悟が必要だっただろう。一歩を踏み出した勇気に敬意を表したい。

14日、その次の28日と、フリーランスの記者が指名され、真剣勝負の質疑が生まれた。異例のことだ。首相会見は少しずつだが、確実に変わり始めている。

私も、アウェーの場だけでなくホームの沖縄でも権力と正面から向き合い、必要な質問をする。各地の記者一人ひとりがプロとして当たり前の仕事を積み重ねた先にだけ、メディアの信頼回復がある。

(阿部岳・『沖縄タイムス』記者。2020年4月3日号)

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