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大林宣彦監督死去 
戦争への嫌悪、映画への愛貫く

阪清和|2020年5月8日4:49PM

【「余命3カ月」宣告でも撮影】

巨匠たちのそんな期待に加えて2000年以降の大林監督の背中を押していたのは、かつての日本家屋にはどこにでもあった人気のない廊下の奥に戦前、戦中はいつも立っていた「戦争の気配」が最近、また立っているのを感じるようになったという、きな臭い世の中への切迫した危機感だ。それは、人間の尊厳を踏みにじり、若者の可能性を奪う戦争や死への恐怖や怒りを詩情と幻想の中に描いた『この空の花-長岡花火物語-』(12年)、『野のなななのか』(14年)、『花筐/HANAGATAMI』(17年)と続く「戦争三部作」につながっていく。

しかしそんな大林監督の旺盛な創作意欲の前に立ちはだかったのが、医師による余命宣告。16年夏、『花筐/HANAGATAMI』のクランクイン前日に「肺がんのステージ4で、余命半年」と告げられ、さらなる精密検査で「余命3カ月」とされたが、撮影現場に戻った。映画を完成させたのは宣告から1年以上経ったころ。「いろんな薬との相性が良く、今は『余命未定』になりました。がんも生きもの、『仲良く一緒に長生きしようや』という感じで付き合っています」と「がんとの共生」を語り、微笑んでいた大林監督。それから3年、戦争を知らない現代の若者たちが、映画館で戦争映画を観るうちに銀幕の世界へとタイムリープし、戦争を止めるために奮闘するという、戦争への嫌悪と映画への愛が詰めこまれた人生の集大成のような最新作『海辺の映画館-キネマの玉手箱』を最後に提示して、82年の生涯を閉じた。この作品から何かを受け取って、次なる「行動」を起こすのは私たち、そして若者たち。大林監督もそう願っているだろう。心より哀悼の意を表します。

(阪清和・エンタメ批評家、2020年4月17日号)

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