東京メトロ売店員、「コロナ」理由の雇い止めに抗議
岩本太郎|2020年5月8日5:18PM
【「私は市民ではなく管理者だ」】
と、そんな和やかな最後の夜のホームに珍客が現れた。後呂さんの上司にあたる、メトロコマース「メトロス事業所」所長のI氏とのことだったが、前記のゼッケンをつけて売店内から接客にあたる後呂さんに対し「就業規則に違反している。店を閉めろ」と〝業務命令〟。しかしご本人も勤務明けに酒を飲んだ後にここに来たとのことで「あなたこそ就業規則違反です」という後呂さんの反論にも「勤務時間外だからいいじゃないですか!」と開き直る始末だ。
横で見ていた私が真意を問うと「あなた市民でしょ?」と興奮。「あなたは市民ではないのか?」と聞き返すと「私は管理者です」。「あなたは本当にメトロスのI氏ですか?」と確認すると「さあ、誰でしょね」と、部下の後呂さんの前で今さらトボけるという、酒に酔っていたとはいえ実に軽率な人物であった(以上のやりとりは私も録音したほか松原さんや堀切さんも映像で撮影済み)。結局I氏は親会社の八丁堀駅職員らに助けを求めるもあまり相手にされなかったらしく周囲の人々から「買い物の邪魔」と、当然の苦情も受けながらやがて退散。後呂さんは予定通り21時半頃、周囲の人々の拍手を浴びつつ店のシャッターを閉め、無事最後の仕事を終えた。
「私は今日で退職となりますが、人生に退職はありません。この先もしっかりと歩んでいきます」
終了後、店の前で仲間の駅売店員の女性たちとならんであいさつした後呂さんは朗らかに語った。現場でお客さんと接しながら働く非正規職員の逞しさと、管理職の権威を振りかざすだけで客の迷惑も考えないメトロコマース社員という、事態の本質を象徴的に表す一幕が見られた夜でもあった。
(岩本太郎・編集部、2020年4月24日号)