新型肺炎、首相の脳天気動画と「常識の通じない危機」
西川伸一|2020年5月9日3:41PM
新内閣が発足すると初閣議で、内閣法第9条に基づき首相の臨時代理予定者が閣僚の中から第5順位まで指定される。2000年4月の第1次森喜朗内閣発足時以降の慣行である。現内閣では、第1順位・麻生太郎副総理兼財務相、第2順位・菅義偉(すがよしひで)官房長官、第3順位・茂木敏充(もてぎとしみつ)外相、第4順位・高市早苗総務相、第5順位・河野太郎防衛相となっている。
首相は緊急事態宣言の発出に際しての記者会見で、自身が感染して職務遂行が不可能となった場合は麻生氏が臨時代理を務めることを明言した(4月8日付『朝日新聞』)。その麻生氏に万一のことがあれば、菅官房長官が、菅氏も職務不能であれば茂木外相へと臨時代理のバトンが次々に渡される。
それに先立つ3月31日、西村明宏官房副長官は閣議後の記者会見で、政府の対策本部会合には首相以下全閣僚が毎回出席するが、臨時代理第1順位の麻生副総理だけは欠席すると語った(4月1日付『同』)。
ただし、閣議には全閣僚が出席している。週に2回、“3密(密閉・密集・密接)”の閣議室で5人の臨時代理予定者が顔をそろえる。これはヒトの危機管理として適切なのか。交代で5人のうち1人は別の場所からオンラインで「出席」するなどの慎重な備えが求められよう。コロナ禍に限らず、閣議室がいつ不測の災いに見舞われるかもしれない。
この点で米国は徹底している。大統領継承法によって大統領職務代行者の継承順位が法定されているのだ。副大統領、下院議長、上院仮議長(上院議長は副大統領が兼務)に次ぎ、国務省から国土安全保障省まで15省の長官に、基本的には省の設立順に従って継承順位が決められている。
その上、一般教書演説など彼らが一堂に会する際には、彼らの中から「指定生存者」が指名されその者は非公開の場所で待機する。職務継承者全員が同時に死亡するなどの最悪の状況を避けるためである。
“4識(織)”を向上させる要であるヒトの危機管理を、軽んじるべきではない。ただ、4月12日にSNS上に投稿された脳天気な首相の動画をみると、そんな心配をすることに徒労感を覚えてしまう。これこそ「常識の通じない危機」か。
(西川伸一・明治大学教授。2020年4月17日号)