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新型コロナが招く「経済の政治化」危機
佐々木実|2020年5月10日10:51AM
「経済の政治化」というもう一つの危機
コロナ災禍で一挙に進むのは経済の政治化である。政府は緊急事態宣言で経済活動を萎縮させ、救済の際には対象を選別する。
経済的領域における基本権を定めた憲法22条には「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」とある。感染の防止という「公共の福祉」を盾に取った国家は、世論に後押しされながら、人々の自由を制限できるようになった。
問題は、国家が「公共の福祉」を独断的に解釈しうることだ。
『サピエンス全史』の著者ユヴァル・ノア・ハラリ氏は『日本経済新聞』(3月31日付朝刊)への寄稿で、コロナ危機は「全体主義的監視か市民の権限強化か」「国家主義的な孤立か世界の結束か」という二者択一を迫ると指摘し、注意を促している。
「緊急時には歴史的な決断でもあっという間に決まる。平時には何年もかけて検討するような決断がほんの数時間で下される」
裏書きするかのように、安倍首相は衆院議院運営委員会に緊急事態宣言を報告した際、「緊急事態条項」での憲法改正を議論するよう呼びかけている。
緊急事態宣言の会見で安倍首相は「私たちが最も恐れるべきは恐怖それ自体です」と語った。この言葉は1933年3月、フランクリン・ルーズベルトが米国大統領に就任した際の演説から拝借したものだ。ドイツでヒトラー首相が誕生したばかりだった当時、日本も満州事変を契機に日中戦争、太平洋戦争へと拡大する15年戦争を始めていた。
言葉だけつまみ食いした安倍首相は言及しなかったが、大恐慌下の人々に恐怖を与えたのは全体主義だった。
パンデミックの今こそ、国家が個人を呑み込んだ歴史を省みる時である。
(佐々木実・ジャーナリスト。2020年4月17日号)
編注:安倍晋三首相は4月16日、新型コロナウイルス対策として全国民を対象とする一律10万円の現金支給を盛り込むため、2020年度補正予算を組み替えるよう、岸田文雄政調会長に指示した。世論の強い反発を受けたためとされるが、支給までに時間がかかることが批判されている。