八ッ場ダム運用開始
利水も治水も必要性なくなった危険な水がめ
岡田幹治|2020年5月12日7:49PM
民主党政権時代に「中止」か「計画通り建設」か、で揉めた八ッ場ダム(群馬県長野原町)が完成し、4月1日に運用を始めた。新型コロナウイルス感染拡大の影響で完成式典などは延期され、ひっそりとした船出だった。
利根川水系の吾妻川に建設されたこのダムの主な目的は、首都圏への水道用水の供給(利水)と洪水防止(治水)の二つだ。だが「いずれも必要性は失われている」と嶋津暉之・水源開発問題全国連絡会共同代表は言う。
利水について国土交通省関東地方整備局は3月10日「八ッ場ダム始動!?東京2020オリンピック・パラリンピックに向け、水資源確保のため、貯留を開始!」と発表。夏の渇水期にはこのダムの水が必要であるかのように装った。
だが東京都の水需要(一日最大配水量)は節水機器の普及などにより1992年度の617万立方メートルからほぼ一貫して減少。昨年度は460万立方メートルだった。一方で都は694万立方メートルの水源を持ち(実績を踏まえた評価量)、200万立方メートル以上余裕がある。八ッ場ダムがなくとも十分まかなえるのだ。
今後、人口減少で水需要はさらに減り、水余りがもっと顕著になると予想される。
もう一つの治水について赤羽一嘉国土交通相は昨年10月の台風19号豪雨後、現地を視察し「八ッ場ダムが利根川の大変危機的な状態を救ってくれた」と語ったが、これは事態を正確に伝えていない。
関東地方整備局は昨年11月公表の「台風19号における利根川の上流ダムの治水効果(速報)」で、利根川の上流と中流の境目にある観測地点(群馬県伊勢崎市八斗島)で、八ッ場ダムを含む7基のダム群はダム群がない場合に比べ水位を約1メートル下げたと推定されると発表した。
しかし同局は7ダム個別の治水効果は検証していないとしており、八ッ場ダムの効果は不明だ。
発表は中下流域での治水効果には触れていないが、利根川中流の観測地点(埼玉県久喜市栗橋)における当時の流量をみると、最高水位が9・67メートルに達し(基準面からの高さ)、一時は氾濫危険水位の8・9メートルを超えたことがわかる。
ただ、堤防はこの地点では氾濫危険水位より約3メートル高く造られており、八ッ場ダムがなくても氾濫の危険性はなかった。
洪水防止に有効なのは、ダム建設ではなく、堤防の強化や河床の浚渫といった河道整備なのだ。