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八ッ場ダム運用開始 
利水も治水も必要性なくなった危険な水がめ

岡田幹治|2020年5月12日7:49PM

【緊急放流、地滑りの危険性も】

台風19号豪雨は八ッ場ダムの危険性も明らかにした。

八ッ場ダムはこのとき7500万立方メートルを貯水したが、これは本来の貯水能力を1000万立方メートルも上回る貯水量だった。同ダムの利用可能な容量は利水用が2500万立方メートル、治水用が6500万立方メートルだが、当時は試験貯水中で、利水用に大量の空きがあり、治水用容量を大きく超える貯水ができ、流入する雨水とほぼ同量の水をダムから放流する「緊急放流」を避けることができた。

だが、本格運用が始まり利水用の貯水が満杯に近い状態の時、台風19号級の大雨が降れば、緊急放流を実施せざるを得なくなる可能性が強い。ダムのすぐ下流は急に増水し、大変なことになるだろう。

運用開始後に危惧されるのは、緊急放流の危険性だけではない。たとえば、吾妻川が運んでくる土砂がダム湖の上流端に貯まって河床が上昇し、付近の長野原町中心部で氾濫がおきる可能性がある。また、ダム湖の水位は季節によって変動を繰り返すが、それが周辺の地層に影響を与えて地滑りを発生させる危険性も指摘されている。周辺には地質が脆弱なところが少なくないだけに心配だ。

構想浮上から68年、約6500億円という日本のダムでは最大の事業費をつぎ込み、地元住民の生活の犠牲という代償を払って八ッ場ダムは完成した。そびえ立つ巨大なコンクリートの塊は、ダム優先の河川行政のシンボルのように見える。

(岡田幹治・ジャーナリスト、2020年4月10日号)

 

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