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東北大元総長、依然不正認めず
不正論文疑惑、金属学会が賞取り消し
三宅勝久|2020年5月18日4:42PM
実験写真やデータを使い回した不正論文の疑い(本誌昨年4月5日号本欄参照)がある井上明久東北大学元総長(現・城西国際大学教授)に対し日本金属学会(乾晴行会長)が今年3月、過去に授与した賞の記録を本人からの「返納申し出」を理由に取り消していたことがわかった。学会が取り得る最大の処分だが、井上氏の研究不正を判断する立場の東北大学(大野英男総長)は「本学として特にお答えすることはございません」(広報室)と、まるで他人事だ。
問題の論文は、「金属ガラス」と呼ばれる合金に関するもので、1999年に井上氏を筆頭著者として日本金属学会欧文誌に発表された。特殊な装置で鋳造した金属ガラス(不規則な分子配列の状態で固化した金属)を一定の条件で加熱処理すると「準結晶」という特殊な結晶の出現を確認した――とする内容で、第48回日本金属学会論文賞を受賞した。
論文発表の翌2000年、井上氏は東北大学金属材料研究所所長に、06年には同総長に就任。文部科学省や経済産業省から総額200億円以上の研究予算を獲得し、先端研究者として脚光を浴びる。ところが07年、井上氏の論文多数に疑問があることが発覚。前記の受賞論文についても別の論文からの写真流用疑惑が浮上した。告発を受けた東北大学は内部調査を行なうが、16年12月に「外観写真の取り違え」にすぎず捏造ではない、不正ではないとの結論を出す。
この調査結果に研究者多数から疑問が噴出。日本金属学会欧文誌編集委が調査を開始し、19年3月、論文誌から撤回。同様の問題があった他の論文2本も撤回した。
井上氏は代理人弁護士を通じて「不正でないことは東北大学調査委員会報告書などに書かれている」「当時の写真(正しい実験写真)は撮影5~6年後に共同研究者(中国人留学生)が中国に持ち帰る時に海難事故にあって失われた」などと回答した。
(三宅勝久・ジャーナリスト、2020年4月17日号)