官民一体でウイルスと闘う民主主義の優等生--新型コロナ台湾の対応
栖来ひかり|2020年5月19日10:36AM
「鉄人部長」に全幅の信頼
対策を指揮する「中央感染症指揮センター」は専門家主体の組織で、防疫については総統に匹敵する権限を持つが、それだけに情報開示の透明性は徹底される。ほぼ毎日開かれる記者会見では最新の情報が共有され、現状や見通し、施策といったグランドデザインが示されるが、その中心人物で「鉄人部長」の異名をとる陳時中(チェンスーヂョン)指揮官が素晴らしい。
中国武漢からチャーター便で帰還した台湾人に初めて感染が見つかったとき、いつも落ち着いた様子の陳氏が思いがけず「帰ってきてくれたおかげで治療できる、命が救える」と、涙ながらにコメントしたのである。
多くの国民がその真摯さに心打たれ、どんなに不便な思いをしようとも彼についていこうと感じたに違いない。常に穏やかで冷静だが、一言ずつに人柄のにじみでる陳氏の人気はうなぎ昇りで、ついに支持率は91%を記録した(3月26日)。
外国から帰ってきた人々への隔離義務付けについても「隔離対象者は肉の塊ではない。人間です。思いやりに満ちた制度を作り、社会で支えることが解決につながる」とコメントするなど、まさに「仁」を体現するひとなのである。
(栖来ひかり・台湾在住文筆家。新刊に『時をかける台湾Y字路』(図書出版ヘウレーカ)など。2020年4月10日号)