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「アビガン」に飛びつく安倍首相
お友達重視との見方も
吉田啓志|2020年5月21日10:57AM
【アビガンならぬ「アベガン」?】
アビガンは「Tー705」とまだ開発コードで呼ばれていた時代、04年から猛威を振るった鳥インフルエンザ対策など、タミフルに代わる特効薬として脚光を浴びていた。しかし、動物実験で胎児に奇形が生じる副作用が確認されるなどし、機運は一気に萎んだ。その後新型インフルエンザが流行したことで、14年に厚労省の製造販売承認こそ取り付けたものの、「新型インフル急拡大時の予備薬」という位置づけにとどまっていた。
政権内部で、アビガン解禁に向けた専門家の議論がなされた形跡はない。中国の二つの試験の論文のうち、一つは4月に入って取り下げられた。それなのに「予備薬」から「本番用」に格上げされようとしている。胎児が奇形となった睡眠・胃腸薬サリドマイド、間質性肺炎で多数の死者を出した抗がん剤イレッサなど、数々の薬害批判を浴びてきた厚労省の内部には「中国のデータに信用性はない」「薬害リスクを上回る利点がない」などと慎重論が渦巻いている。一方、そんな同省を横目に、国産の特効薬開発を欲する経済産業省は「アビガンチーム」をつくり、官邸の意をくんで動き始めている。
「アビガンならぬ、アベガンだな」。厚労省幹部はそうつぶやく。富士フイルムHDの古森重隆会長は、安倍首相を囲む財界人「四季の会」の中心メンバーでもある。製薬業界からは「お友達重視の『モリカケ』と同じ構図では」とのうがった見方も漏れてくる。
新型コロナを巡って官邸は、医師がインターネットを通じて患者を遠隔で診る「オンライン診療」の拡大にも乗り出した。症状を一定程度把握しておく必要性から「初診は対面」が大原則だったのを、経済界の強い意向を受け、新型コロナ終息までは初めての患者でもオンライン可とした。「感染拡大防止」が理由で、やむを得ない面はある。ただ恒久化を目指す動きも見え隠れし、横浜市内の開業医は「見知らぬ患者に触診もできないのでは、誤診する可能性が大いにある」と不安視している。
アビガンに関し、首相は海外にも積極的に提供していくと言う。だが使用実績もなく、広く使われた際の副作用は誰にも分からない。布マスク配布、撤回に追い込まれた一部世帯への30万円給付と、首相お得意の「官邸主導」は最近、ことごとく裏目に出ている。焦慮の挙げ句、万一薬害が発生したら誰が責任を取るのだろうか。
(吉田啓志・『毎日新聞』編集委員、2020年4月24日号)
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