富裕層がウイルスを持ち込み貧困層に感染が拡大--新型コロナ、中南米の対応
伊藤千尋|2020年5月24日11:14AM
世界で最も貧富の差が激しいと言われる中南米では、新型コロナウイルスが「持てる者」と「持たざる者」の差を歴然と示す。
発生地の中国から最も遠い中南米にコロナウイルスをもたらしたのは、夏休みを欧米で楽しんで帰国した金持ちのエリート層だった。感染者は高級な病院で治療を受け大半が治癒したが、彼らに雇われた使用人を通じて貧困層に感染が拡大した。
ブラジルのウイルス感染第1号は2月末で、イタリアでの休暇から帰国した男性だ。エクアドルとウルグアイの最初の感染者はスペインで過ごした休暇から帰った人だった。
中南米でとくに感染者が多いのがブラジルだ。リオデジャネイロで最初の死者は、金持ちの家で働いていた63歳のメイドの女性だ。主人はイタリアで感染して帰国し豪華な病院に入院して治癒したが、感染を隠したままメイドにあれこれ用事を言いつけていた。
「ブラジルのトランプ」と呼ばれる極右のボルソナロ大統領は3月初めに訪米してトランプ米大統領と会談した。同行した側近や広報局長らを始め、閣僚や上院議長も次々に感染している。
ボルソナロ大統領は当初、世界的な感染の拡大を「フェイク・ニュースだ」と無視した。3月末の段階でも「ささいな風邪にすぎない。どうせみんな、いつかは死ぬ」と公言し、経済活動を優先させている。
このため対策が遅れ、マンデッタ保健相は「4月中に医療システムは崩壊を始める」と、市民に当分外出を禁じる政策を提言した。ボルソナロ大統領は彼を「クビにするぞ」と脅す始末だ。
政府をあてにできず、ブラジルの主要な新聞は3月23日に一斉に1面に「ともにウイルスに打ち勝とう」とメッセージを出した。市民は自宅の窓を開けて鍋をたたく、南米特有の反政府運動「ナベたたき」で抗議している。