富裕層がウイルスを持ち込み貧困層に感染が拡大--新型コロナ、中南米の対応
伊藤千尋|2020年5月24日11:14AM
爆発的な死者増加の懸念
アルゼンチンでは長年の女性の運動が実を結び、大統領が中絶合法化法案を国会に提出すると発表した4日後、中南米で最初のコロナによる死者が出た。その後は急速に感染者が増え、法案は宙に浮いてしまった。ボリビアでは5月の大統領選挙が無期限延期に。エクアドルでは死体が大量に路上放置され、副大統領が謝罪した。
観光が最大の収入源のキューバは3月下旬に空港を閉鎖して観光客の流入を止めた。得意の「医療外交」を展開し1月に中国、3月にはイタリアに医療団を派遣した。さらに各国から寄港を拒否された英国の客船を受け入れた。一方、中国は「コロナ外交」を展開し、中南米諸国にマスクや体温計などを大量に贈って感謝されている。エクアドルだけで4万点だ。
さすがなのは平和・人権国家を掲げるコスタリカだ。早くからバーやディスコを閉鎖し、死者2名の段階で教会も閉鎖した。国立リハビリテーションセンターをコロナ治療専門の病院に作り替えた。レストランなどは収容人数の50%まで営業を認め、経済的にも生活できるようにした。自営業者や失業者など約40万世帯に毎月20万コロン(約4万円)を出す計画で、これは一般家庭の平均月収の約7割に当たる額だ。
その財源は高額所得者にかける「連帯税」を充てる計画だ。保健相が毎日、コロナの現状を分かりやすく報告し、国民の信頼を得ている。
中南米には世界人口の約8・5%が住む。特に貧富の差が激しい南米はこれから冬に近づく。貧困層ほど密集したスラムで暮らし、スラムに病院はない。感染が広がれば爆発的に死者が増えるだろう。
中南米こそ世界で最も悲惨な感染地域になると懸念する声もある。
(伊藤千尋・国際ジャーナリスト。2020年4月10日号)