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10万円給付金、「世帯」単位の給付に滲む右派的「家族」観
能川元一|2020年5月29日7:10PM
迷走を続ける安倍晋三政権のCOVID―19(新型コロナウイルス感染症)対策。だがその迷走の中に見える一貫した姿勢もある。政策決定プロセスの不透明さや説明責任の軽視などがそうだが、右派的な「家族」観もまた政府の対策に影を落としている。
代表的なのが、ドタバタ劇の末4月20日に決定した1人につき10万円の特別定額給付金(仮称)だ。当初減収世帯を対象に構想されていた「1世帯」30万円の給付金とは異なり、給付対象者は4月27日時点で「住民基本台帳に記録されている者」となったが、その受給権者は世帯主であり、世帯主が一括して申請することが原則とされている。
これに対してただちに「DV被害により別居している人々が受けとれなくなる」といった批判の声があがり、政府は自治体に申し出ることで住民票とは異なる住所に暮らしていても受給できるとする手直しを迫られた。リーマン・ショック対応策としての定額給付金でも同じ問題が浮上していたにもかかわらず、弱い立場にあるDV被害者や自治体に余計な負担をかけようとしているわけだ。
「世帯」へのこうしたこだわりが、右派の「家族」観と無縁とは思えない。24条改憲などを主張する論者たちは、家族を「社会の自然かつ基礎的な集団単位」とする世界人権宣言の条項を、反個人主義の旗印として換骨奪胎しようとしている。たとえば選択的夫婦別姓制度に反対する際にも、「社会の自然かつ基礎的な集団単位」たる家族の呼称は同一の姓でなければならない、という論理が用いられている。
パンデミック対策は人権の制限を一定程度伴うことが避けられないからこそ、「個の尊厳」の尊重に根ざしたものでなければならない。「世帯」単位の給付金はこのような観点からも批判されねばならないだろう。
(能川元一・神戸学院大学非常勤講師、2020年5月1日・5月8日合併号)