国民生活センター、柔軟剤で「情報提供」も重要情報欠き、役に立たず
岡田幹治|2020年6月4日3:43PM
【業界が決めたことを後追いで要望】
今回の情報提供の目玉は、市販されている柔軟剤に関するテストだ。(1)洗濯用合成洗剤、(2)無香性の柔軟剤、(3)微香タイプの柔軟剤、(4)香りの強いタイプの柔軟剤を実際に使って洗濯し、9畳ほどの広さの室内に干して、1時間後の空気中の揮発性有機化合物(VOC)の総量(TVOC)を測定した。VOCは香害の原因物質を多く含んでいる。
測定の結果、(1)(2)(3)はTVOC濃度が1立方メートル当たり40マイクログラム(μg=100万分の1グラム)程度の上昇にとどまった。これに対し(4)は、表示通りの分量を使用した場合は80μg程度上昇し、表示の2倍の分量を使用した場合は230μg程度も上昇した。香りの強い柔軟剤を使うと、洗剤だけの場合に比べて濃度が2~5倍以上に上昇するのだ。
本来なら、そうした高濃度のTVOCを吸い込んだ場合、人の健康にどのような影響が出るかを調べ、影響があれば行政や業界に何らかの措置を要望すべきだ。
しかし国民生活センターはそこまでは踏み込まず、ただ「TVOCの暫定目標値である400μgを超えるものはありませんでした」と書くだけだ。
だが暫定目標値は、2000年に厚生省が室内空気質の目安として利用されることを期待して設定したものであって、「これ以下なら安全」を示す数値ではない。
今回の情報提供では、製造販売事業者に対して「製品に意図的に配合された0・01%以上の香料成分について、具体的な成分名の表示を検討するよう」要望しているのが目新しい。
これについては日本石鹸洗剤工業会が今年3月「香料成分の自主的な開示の際の指針について」を公表しており、ライオンがすでに柔軟剤や合成洗剤の香料の化学名をサイトで公表している。業界が決めたことを後追いで要望しているのだ。
またこの要望では、有害成分が含まれていても、意図的に配合したものでなければ表示しなくてよいことになってしまう。
香害に苦しむ人たちが政府に要望していることは少なくない。たとえば厚労省には「全国的な実態調査をしてほしい」「専門の診療機関を充実させてほしい」などであり、文部科学省には「学校などの教職員・児童生徒・保護者に、強い香りの製品の使用自粛を呼びかけてほしい」などを望んでいる。
しかし国民生活センターはそういう声は吸い上げようとしない。情報提供では行政への要望として、消費者庁に対し「柔軟仕上げ剤の適切な使用方法について、引き続き、消費者への一層の周知・啓発を要望します」と述べているだけだ。
(岡田幹治・ジャーナリスト、2020年5月15日号)