「大阪コロナ追跡システム」はメルアド登録要請
監視社会への移行懸念
粟野仁雄|2020年6月8日3:49PM
【メルアドだけでも個人の特定は可能だが……】
「個人情報を守りながらITで新型コロナの追跡システムを作れないかを検討してきた」とする吉村知事は「府はメールアドレスだけを管理。名前や住所、電話番号、GPSによる行動履歴などは取得しない」とするが、はたして大丈夫だろうか。戦略チームは「メールアドレスだけでも個人情報」と認めたうえで「開発は坪田部長が来られてからで、民間業者の協力を得ました。今後の運営は府庁の役人が行なうが、データを管理するクラウドは民間のコンピュータをお借りする形になる。業者はまだ選定中です」と話している。
この追跡システムについて個人情報問題に詳しい板倉陽一郎弁護士(東京都千代田区・ひかり総合法律事務所)は「メールアドレスだけで名前や住所がないから個人情報面で問題がないというのはおかしい。連絡が本人にしか行かないようにし、利用目的以外には使えないようにしなくてはならない。韓国ではLGBTのクラブに来たことを公表されてしまったりして大問題になっている。世界的に広がってきたコンタクトトレーシングについては慎重に運営するべきです」と話す。
また『マイナンバーはこんなに恐い!』等の著書がある自治体情報政策研究所(大阪府松原市)の黒田充代表は「メルアドだけでも立派な個人情報であり、個人を特定できる場合も多い。膨大な個人情報を持つ府が氏名、住所などと結びつけることも可能。QRコードをスマホで読み込みメルアドを登録することで、このイベントにこの日時に来たといった行動履歴の個人情報を府に知らせることになる。本人からの同意を得るなど、再検討すべき」と指摘する。
これらの懸念に対し、同チームは「本人の同意を得て今回の目的以外には利用しません」とする。
コロナウイルス問題では愛知県で495人分の感染者名や入院先などが流出する事態が起きたが、懸念は流出だけではない。感染拡大防止の大義名分を奇貨として当局が次々と個人情報を取得し、監視社会へ移行してゆくことだ。
弁護士である吉村知事が個人情報に無頓着とは思わない。しかし「台湾や韓国はITで陽性者の動きを情報公開して感染拡大防止に努めているが、個人情報の保護を優先するのが日本」などと強調するたびに「本音」はどこにあるのかを勘繰りたくなる。
(粟野仁雄・ジャーナリスト、2020年5月22日号)