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佐賀新聞社の「押し紙」実態を裁判所が断罪
宮下正昭|2020年6月15日5:02PM
モノを売る店は、必要な数量を製造元などに注文する。それが通常の商取引だが、新聞業界は違う。新聞社が主導して販売店の新聞部数を決めることが多い。配達実数を超えて押しつけられ、捨てるだけの運命の新聞代金も販売店は支払わなければならない。これが業界の闇と言われる「押し紙」だ。佐賀地裁(達野ゆき裁判長)は5月15日、押し紙を独占禁止法違反(優越的地位の濫用)と指摘。「販売店の利益を犠牲に、新聞社の収入増を意図した」と認定した。
佐賀新聞社(佐賀市、中尾清一郎社長)の元吉野ヶ里販売店主・寺﨑昭博さん(49歳)が「必要以上の新聞の仕入れを強いられた結果、廃業を余儀なくされた」と1億1500万円余りの損害賠償を求めた裁判。佐賀地裁は提訴から3年前の2013年7月からの損害を認め、廃業した15年12月までの30カ月間、計1万2400部余りを押し紙と認定した。
11年3月、岡山地裁が山陽新聞社(岡山市)に対する訴訟で初めて押し紙を認定した時は新聞業界に衝撃が走ったらしいが、このとき認められたのは1日分90部だけだった(黒薮哲哉著『新聞の危機と偽装部数』)。
佐賀地裁が認定した月ごとの押し紙率は13~17%で、仕入れ代金(1部あたり1692円)約2100万円を無駄に支払った形だった。販売店の収入となる折込チラシの押し紙分の代金(広告主にとっては無駄な支出)を約1130万円と算定し相殺、賠償額は約1000万円とした。廃業との関連性は認めなかった。
多くの新聞社が部数の公正さを担保するため加入している日本ABC協会は直接、加盟社を調査する「公査」も行なっている。判決は佐賀新聞社がその公査前に偽装工作をしたことも認めた。15年2月、若手の販売店主らを集めた勉強会で、同社の販売局員が公称部数と実売部数との差を「調整」する手法をレジュメにしていたのだ。
判決はこうした新聞社の姿勢を「販売店の経済的利益を犠牲にして、自身の売り上げを増加させるとともに、ABC部数を増加させることによって広告収入を増加させることを意図した」と指弾。「社会通念上、許容されない行為」で、販売店の「権利を侵害するもの」と批判した。